48: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:33:35.11 ID:9pdDfgPfo
それにここ最近のエミリーに元気がないのがやはり少し気になる。
小さくお礼を言う彼女に、改めて質問してみた。
「あのさ、この絵を描いたときのこと、覚えてないんだよな?」
「《……そうなんです》」
「本当に何も思い出せない?」
「《……ごめんなさい》」
しばらく考えていたが、エミリーはやはり首を横に振った。
「いや、ならいいんだ……レッスン、頑張ろうな」
「《はい、準備できてます》」
「表に車停めてるから、先に乗っててくれないか」
エミリーが頷いて事務所を出るのを待っていたかのように、伊織が尋ねてくる。
「さっきからどうしてそんなにそれが気になるのよ?」
「エミリーが言葉以外に何か思い出せないことがあるとしたら、それはこないだ頭を打ったせいかもしれないだろ」
「でも、子供の頃の落書きなんて何もなくても忘れるわよ」
「ただの落書きならな」
伊織はなんとなく、俺の言いたいことに気がついたようだった。
「エミリーのあの絵はお父様から預かった箱に入ってた……つまりエミリーがずっと身近に置いてたものだ。
あれだけ日本に関するいろんな本やノートを実家に残しておいたなか、わざわざ選んでこっちに持ってきたってことだぞ? 子供の頃の落書きを」
「……そうね」
「それは今でも大事な思い出だからじゃないのか?
それなのにエミリーのあの反応。 うっかり忘れてたとかじゃない……見ても何も思い出せないなんていくらなんでも不自然だよな?」
「……確かに」
何かがおかしい。しばらく待たせておいたエミリーと一緒に車で劇場へ向かう間も、気になって頭から離れなかった。
──やはりエミリーは、子供の頃の思い出を忘れてしまっているんじゃないだろうか?
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