エミリーが忘れた日
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22: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 20:45:50.57 ID:9pdDfgPfo
 
日常会話の学習についてはどうか、という質問には、

「それは、彼女がどのようにして日本語を勉強してきたかによりますから、何とも」

といったような答えだった。

「根気良く日本語を教え続ければ、あるときふっと全て思い出すかもしれません。
 確実なことなど何も言えませんが……とにかく、きっかけをできるだけ多く与えることです」

そうすればきっと──。先生の言うとおりであれば、どうやら一筋縄では行かぬにしても、少し希望も見えてきたかもしれない。

「わかりました。 ありがとうございます」
「また何かあったら遠慮なく相談にいらしてください。 できればスチュアートさんの具合も診ておきたいので」
「はい」

一礼をして診察室を出ようとしたとき、ふと思いついたように先生にもう一つだけ質問してみた。

「ちなみに、先生」

何の気なしの、ついでの疑問。

「意味記憶と結びついたエピソード記憶とやらがあったとして──そのエピソード記憶ごと、忘れてしまったときは?」
「ふむ──そうなると厄介かもしれませんね」

先生は悩ましげに答えを選んでいるようだった。

「手繰り寄せる紐がなくなってしまう訳ですから、思い出すのはより困難になると思います。
 そのエピソード記憶を思い出すための、さらに強烈なきっかけが必要かもしれません」
「なるほど……」

改めて挨拶を済ませ、病院を後にした。


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