96:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 11:51:08.81 ID:YWfCY9A20
『そっか……沙綾ちゃん……』
沙綾の話を聞き終えて、カスミは消え入りそうな呟きをポツリと落とす。きっと電話越しの顔には憂愁の影が差していることだろう。
『わたしたちに出来ることって、何かないかな』
それから今度は強く芯の通った声がして、沙綾は温かい気持ちになる。ああ、やっぱり香澄はどこでも香澄だ。
「あるよ。カスミちゃんに……ポピパのみんなにしか出来ないこと」
その気持ちのまま、静かな声を返す。電話の向こうでカスミは固唾を飲んでいるような雰囲気が伝わってきた。だから、沙綾は続けて言葉をかける。
「歌を……もう一度、歌を贈ってあげてほしいんだ。カスミちゃんたちのまっすぐな気持ちを、歌詞にして、言葉にして贈ってほしい」
かたく閉ざされた最後のとびらを解き放つもの。それは音楽という魔法の鍵だ。
例え時空を超えた世界に迷い込んだって、離れ離れになったって、それだけで大きな勇気を貰えるし、元気になれる。
『歌を……』
「私もね、香澄にそうやって勇気を貰ったんだ。だからもうひとりの私だって、カスミちゃんからの言葉で、音楽で、何でも出来るってくらいの元気を貰えるはずなんだ」
『そっか……そっか!』
曇天から射し込む一条の光を見つけたように、カスミの声が弾む。
『分かった! わたし、頑張る! 沙綾ちゃんに元気を届けられるように!』
「うん」
その元気いっぱいな声を聞いて、沙綾も少し元気を分けてもらえたような気がした。
それからニ、三言、他愛のない言葉を交わし合ってから、沙綾は通話を切る。ふっと息を吐き出して、廊下の窓から夜空を見上げる。
黒い空にはまだまだ雲の影が多いけれど、その隙間からは半分の月が顔を覗かせていた。
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