31:名無しNIPPER[sage saga]
2019/05/25(土) 10:57:43.85 ID:YWfCY9A20
いくら願っていても明けない夜はない。見慣れない自室の奇妙な居心地の悪さに寝苦しい思いをしながらも、太陽は東の空から昇ってくる。
昨日と同じようにスマートフォンのアラームに起こされた沙綾は、部屋の中を見回して、やっぱり自分が違う世界にいるんだということを否応なく突き付けられた。
「……はぁ」
今日は、昨日のような変な夢は見なかった。もしかしたらその夢を見れていたら元の世界で目覚められただろうか。そんな栓のない思考がぐるりと頭を一巡りしたところで、ため息を吐き出す。
アリサの言葉の通り、どうしてそうなってるかも分からない、フツーに考えたら有り得ない空想。けど、こうして見慣れない部屋でヤマブキサアヤになっている山吹沙綾がいるのは紛れもない現実だ。
二十四時間前の私は割と呑気に事の次第を受け止めていた。だけどサアヤの境遇を聞いて、こうしてサアヤとして何ともない一日を過ごすんだ、と思うと心に重いものがのしかかってくる。
「……頑張らなくちゃ」
それでも逃げるわけにはいかない。沙綾は深呼吸をして、空元気を身体中に巡らせる。
まずやることは父さんとパンの仕込み。それから三つ子の弟たちを起こして、幼稚園へ送っていく。
「よしっ」
やまぶきベーカリーではなくヤマブキパン。純と紗南ではなく陸くん、海くん、空くん。いや、弟にくん付けはおかしいか。
夕飯や簡単な店の手伝いの時など、昨日はややぎこちない対応をして父さんに心配されたけど、今日はそんなことがないようにしなくちゃ。そう思って、沙綾は洗面所へ身支度をしに向かった。
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