荒木比奈「貴方が居る、其れだけで浮かぶ」
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9: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2019/04/09(火) 00:39:10.68 ID:Tnjuxph+0
体をある程度清潔にした後、比奈は着替え、再び眠りについた。それを見届けてから、汗を吸ったジャージやブラ、パンツを洗濯機へ持っていく

さっき回していた分が終わっていたので、それらを取り出し、持ってきた分をまた入れる。

それが終わるまでに、また何か必要な物資を買いに出よう。果物の缶詰とか、ちょっとした食材とか、がらんどうの冷蔵庫に入れておこう

近くのスーパーから戻ると、ちょうど洗濯は終わっていた。さっき干した分の隣にそれらを干しておいた

後はもう帰るだけだろう。寝ている比奈を起こすのは忍びない。鍵はポストへ入れておく、という事を書いた置き手紙をベッドの縁に残した

最後、寝室を出る前に机の上の漫画用の道具が目に入った。どれも黒色で少し汚れていて、二足のわらじを履くために頑張ってるんだなぁと思って、急に涙が出そうになった

鍵を閉めて、ポストに入れて、マンションの階段を降りる

帰り道は歩くことにした。特に理由がある訳でも無い。タクシーや電車でもいいけど、このときは何故か歩きたかった

鞄の中に手を入れ、ラッピングされたプレゼントを取り出す。包まれているのは、僕からしたらなんてことないアクセサリーなのだが、比奈が好きな漫画がコラボしたもので、曰く「再現率が高すぎて語彙力が失われるっス」らしい

冬アニメの円盤に気をとられ散財した後に予約が始まったらしく、食費をこれ以上削ったら水と霞以外に食える物がなくなると諦めていたようで。だから、これをプレゼント出来たら良いなって思って、ギリギリで予約して、ギリギリで届いて、今日渡せるのが楽しみだった

親しい人の笑顔は、何よりも輝いてみえると思う。それを見ることが出来るんじゃないかって、今日の4月9日が楽しみだった

でも、今日はもうダメだ。これは渡せない。比奈が熱を出しているし、やむを得ないとはいえアイドルとプロデューサーである以上越えてはならない一線へ踏み込んだ。介護のような者だとは言え、彼女にしてしまったことの精算をしない限り、この両手に彼女の体温が残っている限り、僕にはこれを渡す資格などない

「……誕生日、なのになぁ」

これを渡せるのは、きっと明日以降になるだろう。僕が21歳の彼女に渡せたものは未だにおかゆと食材とゼリーしかない。食べ物ばかりだな

だから、ちゃんとやり直すんだ。

ちゃんと今日あったことを精算して、それから今日に至るまでに出来なかったこともちゃんと確認してから、改めてこれを手渡すんだ

そうしないと、21歳の4月9日が思い出じゃなくなる。忘れたことも覚えてないような、そんな今日になってしまう

傲慢な考えだけど、僕にはそれしか出来ない

プレゼントを再び鞄に入れる。春先でも夕方になるとまだ冷えるし、鼻や手の先っぽはまだ冷える。マフラーも手袋もないし、我慢出来ないほどでもない。

冷たい空気に両手を触れさせながら、僕は帰り道を辿った





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