8: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2019/04/09(火) 00:38:30.78 ID:Tnjuxph+0
祖父が病に伏したとき、祖父を濡れタオルで拭うのは自分の役目だった。祖父は僕に拭いて貰うと元気出るなぁ、と終わった後毎回溢していた。今となっては、そんなことを言ってくれることも、僕が祖父の体に触れようもないけれど
だから、他人の世話をすると言うことには慣れている……ハズだ
比奈が濡れタオルをベッドにおいてから、ジャージのファスナーを下げた。僕は観てはならぬと、とっさに目を背けた
衣擦れの音、ファスナー同士がぶつかる金属音、ホックを外す軽い音……一通りそれらが鳴った後、比奈に「寒いから、早く」と催促をされた
……これは介護だ。僕はプロデューサーである。荒木比奈という担当アイドルの、彼女の裸体をこれから見てしまうが、介護であり、仕方のないことだ
やんごとなきことで、やむを得ないことなのです
そうやった言い訳を誰かにしながら、僕は振り返る
「……背中から拭くから、後ろ向いて」
「わかった」
やんごとない、事だから
「…………冷たくない?」
「……平、気」
濡れタオルを比奈の肌に押し当てながら、手を動かしていく。比奈の体重は43kgと、あの医者が言ったように痩せていて、こうやって皮膚を撫でれば骨の感触までもが手のひらに伝わる
薄くて、細くて、柔らかくて、堅くて、熱くて。祖父の背中とはまた違った、弱々しさと強さが同居していた
そしてなによりも、小さかった。今日誕生日を迎えもう21歳になったとして、彼女はまだ21歳で、女の子なんだ。
この小さな背中に、どれだけの重さを背負わせてしまったのだろうか。アイドルにスカウトして、僕はかつての比奈の生活や人生をねじ曲げた。それがもたらした重荷を、彼女は背負って1年来たのだ
夢と夢の両立。背負ってきた彼女に対する敬意と、背負わせてしまった彼女への罪悪感が同居を始めた。伝わってきた体の熱が、罪悪感をほんの少し加速させた
背骨や肩甲骨、肋に触れた。やっぱり堅かった。
「……次、ちょっと左腕上げて」
「ん」
伸ばされた左腕を支え、タオルを這わせていく。数回往復させたら、次は右も同じように。二の腕が柔らかかった。そんな感触を感じ取ってしまう自分が情けなかった
さっきの罪悪感とは別の罪悪感が湧いてくる。誕生日に熱を出して、肌を晒し、男に拭かれている。なんかすごい、本当に、申し訳ない。
熱が下がったら、鞄に潜ませたプレゼント以外にも何かを送ろうと決心した
「比奈、前は自分で出来る?」
「……うぅん」
「………………………」
同じ言葉で言い訳した。
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