荒木比奈「貴方が居る、其れだけで浮かぶ」
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3: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2019/04/09(火) 00:32:08.93 ID:Tnjuxph+0
◆◇◆

電話越しの声はかなり辛そうでした。ええ、締め切り前の時と同じくらいに辛そうでした。私個人としては、ジャージの色が同じく「緑の者」として少し親近感を得ている比奈ちゃんが心配です

「おっはよぅござーいまーす!」

と、私の心配をよそに彼が――比奈ちゃんのプロデューサーさんが出勤しました。久しぶりにただのスーツ姿で出勤したように思えます。前まで寒くてマフラーをしてましたもんね。緑色じゃないマフラー

プロデューサーさんは少し上機嫌です。小躍りしそうなくらい。何をそんなに浮き足立っているのでしょうか。担当アイドルが高熱で苦しんでいるというのに

……いや、見逃しませんよ私は。プロデューサーさんのかばんから覗いたもの。綺麗にラッピングされた『何か』。そこで私はカレンダーとスケジュールボードをちらりと見ました。ははぁ、確かに今日はめでたい日ですね。

めでたい日だからこそ、比奈ちゃんの気持ちを推し測るとなんとも言えない気持ちになります

「おはようございますプロデューサーさん……その、比奈ちゃんの事なんですが」

意図せず重い口調になってしまいました。しかしそれが功を奏したのか、プロデューサーは身構えました。顔にほんの少し真剣さが混じります。

私の生来持っての悪戯心が働いたというか、お節介というか。普段から二人を眺めてやきもきしている傍観者としての心理が働いたというか

「ええ、比奈ちゃんが……」

体調を崩してしまって今日はお休みです。電話越しの声はかなり辛そうでした。季節の変わり目ですからね。しかし、まだこの季節ではインフルエンザの可能性もあります。それでなくても心配ですよね。確か一人暮らしでしたし

プロデューサーさんの体に力が入っていきます。中々私の話術も捨てたものではありませんね、悪用するつもりはありませんが

しかし、こういうときには使わせて貰いましょう。

「今日のお仕事は……」

「明日に回せます。いや、回します」

プロデューサーさんは座りかけていた椅子を元の位置に戻して、ネクタイを緩めました

「有給休暇って今から使えますか?」

「厳しいです」

ウチの就業規則は……というか即日使えるものじゃないですよ。せめて昨日の内に言ってくれれば

「じゃあ僕今日は体調不良ってことにしておいてください、早退します」

踵を返して、プロデューサーさんは部屋を後にしました。

「お願いします、それじゃあお疲れ様でした!」

私は手をひらひらと振って、そんなプロデューサーさんを見送ります。急ぎ足で、比奈ちゃんがとっても大切に思われているのが分かりますね。アレで無自覚なのだから驚きです

いやあ、なんとも。彼女の言葉を借りるのならば「尊い」とでも言うのでしょうか。

さてと、それではプロデューサーさんがおやすみする理由をでっち上げましょう



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