【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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21: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 18:00:17.47 ID:khuu0cd90
 首をひねってから、プロデューサーは努めて柔らかな口調で言った。

「それは……どうだろうな。仕事がうまくいってる時の自分は好きだし、行き詰っているときの自分は嫌いだ」

「ふふっ、結局のところ仕事ですか」

「仕事は大好きだからな。本当の自分なんて俺には難しくてわからないよ。少なくとも、今のところは」

 プロデューサーが肩をすくめる。その仕草が、私には嬉しかった。

 『本当』を見ていたいと彼は言う。『本当』なんて難しくてわからないとも彼は言う。その矛盾、理解できるかわからないものを尊ぶ彼の在り方が、私には希望のように思えた。

 プロデューサーの言葉を反芻する。

『呼び方って結局は、その人のどこを見ているか、なんだと思う』

 それは正しいと思う。では、ある呼び名を要求する行為とは何なのだろう。『ふゆ』と呼ばれたがる彼女が、周囲に求めているものとは一体どんなものなのだろう。

 やはりそれは、見てもらいたい自分をこいねがう行為で、彼女はそうやって虚像を結ぼうしているのだろうか。

 遥か遠くの実像に、私はすがった。トップアイドルになりさえすれば自分を肯定できるのだと、目的と手段を入れ替えた。自分を肯定できないものが、トップアイドルになれるはずはないのに。

 手短な虚像を、彼女は被り込んだ。自分じゃない自分なら肯定してもらえるのだと、目的を別のものにすり替えた。それでは、満たされるはずがないのに。

 ……ああ。そんなところまで逆さまで、そっくりだ。

 彼女と私は似た感情から出発して、真逆の道をたどろうとしている。ならば、その行きつく先も、行き着きたいと思う願いも、おそらく鏡合わせのようなものになるはずだ。

 この一年、アイドルとして在る中で、私は自分の底に根付くものを取り戻した。それは、「自分自身を好きでいたい」という大切でささやかな願い。忘れかけていた夢の詰まった宝物。

 その逆だというのなら、彼女の願いは。嫌いな自分をひた隠しにしようとする彼女の祈りは。その根底にある綺麗な想いは、きっと。

 いつか誰かに、『本当の自分』を――



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