【シャニマスSS】冬優子「それは」灯織「あったかもしれない邂逅」
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17: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/04/07(日) 17:55:26.67 ID:khuu0cd90
 傘が宙を舞った。はらりはらりと雨の中を泳いで、私の足元に落下した。

 落ちた頃には既に、彼女は走り去っていた。足音すら聞こえなくなって、耳に響くのは途切れることのない雨音だけ。後悔の念が、じわりと心に染み込んでくる。
 
 ……私は、そもそも何をしたかったのだろう。彼女の心を暴き立てて、それでどうするつもりだったのだろう。

『私もそうなので、一緒にアイドルをやりませんか?』

 とでも言うつもりだったのか。まさか。

「……まさか」

 驚愕した。どうやら私は、本気でそんな無責任なことを言いたかったらしい。

 でも、だというのなら、なおさら私は失敗している。最初から自分の目的に気づいていれば、別の道もあったのだろうか。

 ……いや、それもない。

 実のところ、私には最初からわかっていたのだから。弱い私では受け止めきれなくて、目を背けていただけ。

 彼女の擬態があまりにも綺麗だったから、ほんの一瞬、騙されてしまったけれど。でも、あの雨に打たれる彼女を見た時点で、私にはその根底が見えていたはずなのだ。
 
 雨を意に介していなかったのは、濡れてしまう自分なんてどうでもよかったから。

 冷たさに耐えられていたのは、嫌いな自分が罰を受けているようで安心できたから。

「……一年前の私なら、たぶん平気だったから」

 投げ渡された傘を拾う。今の私には必要なものだ。冬の終わりを告げる冷たい雨の中を、私はもう泳ぐことができない。でも、それでいい。

 私はまた、ぼんやりと空を見上げた。自分の無力さに視界がゆがむ。

「……う……ぁ、ぁあ……」

 雨水が静かに、頬をつたった。




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