加群「鏡の向こうの」
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12:名無しNIPPER[sage]
2019/04/03(水) 21:18:27.53 ID:pOwoTKMWo

 かつては、加群は脳幹の喫煙に対して非常に厳しかった。
 それは勿論彼の身を案じているわけではなく、子供たちの成長を見守る教師としての立場からの意見だった。
 愛煙家の教師など幾らでもいるものだが、木原加群という教師は煙草の臭いを付けたまま子供たちの前に立つことを嫌っていた。
 ただ漫然と教師になったのではなく、高潔な精神を持って子供たちと接していた。
 そんな彼のことが、脳幹は好きだったのだ。

 だが今の彼は、何も言わない。
 特に主義が変わったというわけではなく、殊更に注意する理由がないのだろう。
 この周囲には子供の気配など微塵もないのだから。
 そう。子供たちの街であるのに、ほんの僅かすらも。

『……この手の輩は絶えないものだね。特にこの街では』

「そうだな」

 返答は肯定。しかしまたしても会話にはならなかった。
 言葉に血が通っていない。それは当然脳幹の発する声が機械音声だからというわけではない。
 会話は言葉のキャッチボールなどと例えられるが、今のこれは壁当てよりも空しい行為だ。



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