5: ◆2DegdJBwqI[saga]
2019/03/14(木) 03:29:21.49 ID:6J0cTy0so
コートのポケットから黒いコードを伸ばしたイヤホンが、彼女の両耳に爽やかなラブソングをリピートし続け、外界の雑多な音の刺激から彼女の柔らかい心を守っていた。
だから、待ち人の到着を、音ではなく視覚的な情報で知った。
彼女が見つめるタイルの上に突如現れ静止したスニーカー。
カーキ色の生地がダブついた単色のラフなジーンズ。
私は、いま見られている。
そう思った途端彼女の心臓は、ドクンと跳ねる。
彼女は俯《うつむ》かせていた顔を上げる。
束の間の熱が、手足の先までじんわりと行きわたる。
音楽プレーヤーの再生を止めるためポケットに利き手を突っ込んで、はじめて自分の手が発汗にひどく濡れていると気づく。
彼女――笑美莉が何か言うよりも先に、
「お、おはよう」
と智子は言った。
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