39:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/13(木) 21:45:13.69 ID:Y/Zj2+tv0
さて、僕の物語もいきなり佳境に入っている。僕がなぜ、このような狂った世界に飛ばされてしまったのか、どうして異世界に飛ばされた記憶がないのか、既にその全ての真相が明らかになっている。故に僕はいま、悩んでいる。この世界から逃げ出すために、自ら命を絶ってしまおうか否かを。
別に死を恐れて悩んでいるわけでは無い。問題は死んだ後のことなのだ。もし、肉体的な死を迎えてなお僕に意識があり続けたとした。その魂は、きっと地獄か天国に送られることだろう。そうして、送られ先が僕の見知った天国地獄と大幅に異なっていたら。それこそ、この狂った現世に準ずる世界だったとしたらどうする。
輪廻転生を果たしたとしても同様だ。結局のところ、僕はまたこの世界に帰ってきてしまうのではないか。ならば、僕は延々とこの世界で生きていかなくてはならないということになる。それがたまらなく恐ろしいのだ。
あの日、謎のカセットテープを見つけた僕は、すぐさま事務所へと戻りそれを再生した。もちろん、自分の頭でだ。片面30分の短い間であったが、僕は僕のすべての人生を見つめなおすこととなった。最初は、とまどい何が起こったのかわからなかった。だから、何度もカセットテープを再生した。だが結果は同じだった。カセットテープが再生されている30分の間、僕はまるで夢か映画を見ているかのように僕の僕が人間だったころの記憶を全て追体験させられたのだ。
問題なのは、それが本当の意味で僕の人生の全てではなかったということだ。一部の記憶の欠落、僕自身は覚えているはずの記憶がすっぽり抜けていた。それは、この世界に来てからの記憶だった。つまり、僕の人生にはこの狂った世界での思い出はないということだ。
では、僕の最後の記憶とは何だったのか。大変喜ばしいことに、それは死ではなかった。異世界に転移してきている時点で僕は一度死んでしまったのではないかと、僕は疑っていた。統計上、それが至極自然な導入だしね。だが、そうではなかった。
僕は、僕のすべての記憶をデータ化しそれを広大な宇宙に向けて発信したのだ。
アレシボメッセージ……というよりは、ボイジャーのゴールデンレコードのほうが近いかもしれない。なぜなら、それは返信を期待したものではなく、ただ一方的に僕という人間が銀河系の隅っこにいることを知らしめたかっただけのものだからだ。僕は、自身の研究を「愛」であると恥ずかしげもなく公言していたが、実に一方的で独善的な「愛」ではないか。
いったい何年、いや何億年経ったのかはわからない。宇宙に放たれた一方的な愛はついにとある惑星に届いた。そう、この狂った惑星に僕の愛はたどり着いた。そして僕は、ラジカセの頭をもつ僕は。僕の「愛」を受信してしまったのだ。それどころか、僕はそれを本当の僕に上書きしてしまった。大事なカセットテープのツメは折っておくという、たった一挙動ですむ安全対策を本当の僕は怠っていたのだ。
そうやって、本当の僕はある意味で死に。そして、上書きされた偽物の僕の誕生したというわけだ。
つまるところ、僕は偽物である。そして、僕が恋い焦がれている正常な世界は僕の本当の故郷ではなかった。この狂った世界こそが、本当の僕の本当の故郷なのだ。シュレディンガーが言っていた、狂っているのは僕の方だというのは正に真実であったのだ。
「死ぬ……のは嫌だなあ……」
ふと本音が口をついて出た。シュレが寄ってきて、体を僕の足にすりつけてくる。彼なりに僕のことを心配してくれているらしい。
「そうだな、死んだらシュレの遊び相手がいなくなってしまう。僕らは一心同体の探偵仲間だもんな。まだ、僕は死ぬわけにはいかない」
心機一転、僕は隣室の神を頼ることとした。
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