少女は死ぬまで生きるようです
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9:はみがき
2019/02/10(日) 11:45:54.05 ID:eA0evHgOO
『サーチライトに撫でられるまで』第8話

中学校へと向かう懐かしい坂道。半年だけだけれど、私はこの道を歩んだのだ。あの頃は登下校も一人だったけれど、今は隣に百夜がいてくれる。

ああ……私は百夜に依存してしまっているのかな。
そんなことを考えていると、いまさら死ぬのが惜しくなってくる気がして、その思考を頭から追いやった。

「きっつい坂道だねー…。こんなの毎朝登ってたの?」

汗で額に前髪を張り付かせながら百夜は言う。
死神も汗をかくんだな、なんてのんきに思った。

「うん、半年間だけね。あの頃は坂を登る脚がよく震えてたっけ……」

「クラスに馴染めなかったの?」

「馴染めなかったのは否定しないけど…なにより、馴染めない自分を許せなかったんだ」

「だから…学校にいけなくなったときは、罪悪感で胸が押しつぶされそうだった」

「ふーん…」

百夜は空を仰いで、さして興味もなさ気に言った。
もしかしたら、百夜の飄々とした態度は演技なのかもしれない。わけも無く、私はそう思った。

「ほら…着いたよ」

卒業してもう何年も経つというのに、校門の前に立つと脚がすくんでしまう。時折校庭から聞こえる笛の音に、なんだか怯えてしまう。

「詩織。ひどい顔してるよ?」

「そんなこと……」

「まあ…とりあえず入ってみようか。透明化はしてあげるからさ」

「うん……」

駐輪場を横切り、下駄箱の脇を通り過ぎる。
教室に向かう途中、数人の生徒とすれ違ったがやはり私の姿は見えていないようだ。それでも、心臓はうるさくて仕方なかった。どうしようもなかった。

「へえー…今の中学校はエアコンなんてついてるんだね」

「百夜の頃はついてなかったの?」

「ついてなかった気がするんだけど…。あれ、おかしいな…記憶があいまいだ」

少しだけ哀しげに、彼女は困ったような笑みを浮かべた。

そのあとは職員室へと向かった。
見覚えのある先生がいた。元担任だ。
不登校の私の家に、足繁く通ってくれた。
それを思い出して、なんだか申し訳なくなって、涙がにじんだ。


そんな私の頭を、百夜は優しく撫でてくれた。
姉が妹にするように、指先で髪を梳いては抱き寄せてくれた。



その行動に私は少しだけ、違和感を覚えた。
百夜の優しさはこんなかたちだっただろうか…?

なんだかその抱擁は、わたしと白夜の別れを予感させた。……私の勘違いだと、いいのだけれど。


そうして、私たちは学校をあとにした。
最後に振り向いた校舎の姿は、やはり私の胸を締めつけた。この痛みを死ぬまで覚えていようと、なんとなく思った。






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