3: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2019/01/01(火) 04:28:52.28 ID:pAwLlUB80
わたくしの家──黒澤家は言わずと知れた内浦の名家。
そのため新年はあっちへこっちへ引っ張り凧。
両親だけでなく、わたくしたち姉妹もお正月はたくさんの新年の挨拶回りに連れまわされたものです。
大晦日の夜は元日の挨拶回りに備え、早く寝るように言われ……よくよく考えてみれば、今のように除夜の鐘をゆっくり聴いたことはあまりなかったかもしれませんわね。
……まあ、それ自体が嫌だと思ったことはありませんでした。そういうものだと思っていたので──まあ、専らルビィは、寒いし、眠いし、忙しい新年の挨拶回りは好きではなかったようですが──それはいいのです。
ただ……ただ、忘れられるのが、寂しかった。
ダイヤ「おとうさま……」
黒澤父「なんだ、ダイヤ」
ダイヤ「あの……きょう……」
黒澤父「ああ、今日は忙しい。黒澤家の娘として、恥ずかしくないように」
ダイヤ「あ、いや……そうじゃなくて……」
黒澤父「……なんだ?」
ダイヤ「……き、きょうはそれだけなのですか……? あいさつまわりで、おわりなのですか……?」
……きっと、わたくしの遠回りな問いかけは、幼心にあった『期待』だったのでしょう。
黒澤父「……他にやることがあるのか?」
ダイヤ「……っ!」
黒澤父「なんだ、ダイヤ」
ダイヤ「……い、いえ、なんでもありませんわ」
……父は立派な黒澤の人間だった。
悲しくなるくらいに。
こんな答えが返ってくるなら、聞かなければよかった。
……聞きたくなかった。
父が去ったあと、部屋に一人残されたわたくしは、
ダイヤ「……おたんじょうび……」
ただ、力なくそう呟いたのでした。
* * *
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