34:名無しNIPPER[saga]
2018/12/28(金) 21:42:28.23 ID:JbQZeQhn0
男は冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し、プルタブを開けて一息に飲んだ。
「親父の親父、つまり俺のジジイだな――そいつも、似たようなもんだったらしい。
結婚もしないまま、子供ができた途端に逃げたから、親父は母子家庭だった。
未亡人が子供を作ったと知った周囲の人間から、婆ちゃんと親父は相当に叩かれたんだってよ」
ジイサンは部屋に立ち尽くし、男の語る恨み節を黙って聞いている。
「そりゃ性格も歪むよな、親父も。
親父を好きになったお袋や、その二人に育てられた俺も。
食わしてやってるだけありがたく思え――それが、唯一覚えてる親父の言葉だ。
お袋は交通事故で死んだよ。酒に溺れてヒステリー起こして、男を追いかけようと道路に飛び出してな」
――僕は、好奇心でこの男にジイサンを会わせた事を悔やんだ。
せっかく残された、彼の生きた証がこんな結末だったのか。
ジイサンの行いが全ての原因ではないだろうが、少なからぬ責任を感じてしまうかも知れなかった。
爪痕を残す事ばかりを求め、それが正しいと信じて疑わなかった。
自分がその時代に残す爪痕が、必ずしも良い結果を生むとは限らないことを、僕は知るべきだった。
「そうか」
ジイサンは小さく呟いた。
「よく今日まで生きてくれた」
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