11: ◆FreegeF7ndth[saga]
2018/12/09(日) 13:06:50.39 ID:fZLSzMfRo
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「…………っ!」
足音は、コト、コト、コトって軽い感じで、あたしたちの隣の個室に入った。
パンプスみたいな鋭さはない。ということは、オフィスワーカーではないね。
アタシは、上からくちびるを奪った。
「ん――っ! ふぁ、んんんっ――!」
荒い呼吸音と衣擦れが、パーテーションを回り込んで、
きっと向こう側の誰かさんに届いちゃってる。
そう思うと、アタシは頭がしゅわああって燃えるのを感じた。
「んく、んん――っ! ぁぅ……っ」
カチンカチンって音も響く。
いっちゃえ。届かせちゃえ。もっと。
「んんんんっ……ぷ、はぁ……っ」
もっと。もっと――
「あ、あのっ、もしかして、お具合が悪いんですの……?」
いきなりモモカちゃんの声が聞こえた。
アタシとシキちゃんは、同時に凍りついた。
「と、とても苦しそうなお声で……人を、お呼びしましょうか?」
あ、そうなんだ――パーテーションごしに聞こえてくる。
さっき入ってきたの、モモカちゃんだったんだ。
「だ、だいじょうぶ――心配、ないよっ……」
「その声は……もしかして、志希さんですか?」
モモカちゃんの推測は大正解だった。
「心配、ないよ、ごめんね、きょうは、邪魔しちゃって……」
「いや、あの、その……」
ただ、モモカちゃん自身は、自分の推測があたったことに驚いてるらしかった。
そうだよねぇ。
シキちゃんが狼狽したり、息を荒げることなんて、
モモカちゃんの前ではたぶん一度もなかったんじゃない?
「だいじょうぶ、だから……心配、しないで――」
アタシは出来心を起こして、手で鎖を引っ張った。
カチン、カチン、カチン。
「ひぁあっ……!」
シキちゃんとアタシの体が、折り重なったまま衣擦れもろとも浮き沈みする。
「あ、あの、何か、もしかして、ご病気でもされて……」
「ちょっと、休んでるだけ……フレちゃん、いるから、だいじょう、ぶっ」
カチン、カチン、カチン。
びくっ、びくっ、びくっ――
「はぁぅ……っ!」
「え、あ……フレデリカさん?」
アタシは、目を白黒させるモモカちゃんの表情がありありと想像できた。
「ふ、フレデリカさんを呼んでまいりますわ! すぐ戻りますから、お気を確かに……っ」
「あっ……も、ももか、ちゃんっ……」
アタシたちは、モモカちゃんの背後からコソコソとトイレを脱出した。
休日の残りは、カチンカチン音を鳴らしながら、空っ風の街をあてもなく歩き回って過ごした。
あてなんかいらなかった。雑踏の中、二人で繋がってるのが楽しかった。
翌日、アタシとシキちゃんは揃って風邪を引いた。
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