【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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21: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/08(土) 00:31:07.53 ID:1bCRB9ws0
 くるみちゃんは言われるがままに立ち上がる。

「夕美さん、さっきのレッスン曲よりちょっと遅いくらいのテンポで、手拍子してもらっていいですか?」

「うん、このくらいかな?」

 美穂ちゃんが頷く。それから、私の手拍子に合わせて左右に身体を振った。

「くるみちゃん、私と同じ動きをしてみて」

 くるみちゃんはぎこちない動きで美穂ちゃんを真似る。美穂ちゃんはちょっと膝を使って自然に左右に揺れているくらいの簡単な動きしかしていないので、くるみちゃんもすぐにその動きに慣れて、自然に動けるようになってきた。

「じゃ、その動きのまま、手の動きも入れるよ」

 美穂ちゃんは両手を交互に突き上げるようにする。
 くるみちゃんもそれに従った。

「えっと、こう……?」

「ほらっ、くるみちゃん、できてるよ!?」

 美穂ちゃんは踊りながら、嬉しそうに声を出す。

「え、えっ?」

 美穂ちゃんが動きを止めると、くるみちゃんも遅れて動きを止めた。美穂ちゃんが拍手する。私と、周りで観ていた何人かも拍手すると、くるみちゃんは恥ずかしそうに頬を染めた。

「全部をいっぺんに見ると、難しそうに見えるけど、ダンスって今みたいに、一つ一つの動きが順番に繋がってできてるんだ。だから、一度に覚えるのはひとつずつ。私も記憶力に自信があるほうじゃないんだけど、身体を動かしていくうちにいつのまにか覚えちゃうの。不思議だよね。それにね?」美穂ちゃんはトレーニングルームの中をぐるっと見渡す。「一人一人、みんな違うから、苦手でも大丈夫。もちろん、トレーナーさんが厳しいときもあるけど、でも、ぜったいに私たちのことをバカにはしない。だから、私たちも頑張れるんだ。がんばって、がんばって、それから難しいことができるようになるとすっごく嬉しいんだよ!」

 言って、美穂ちゃんはにっこりと笑った。
 屈託のない、本当にお花がそこに咲いたみたいな、明るい笑顔。思わず私も、胸が高鳴るような気がした。

「くるみも……できるように、なる?」

「うん、絶対なれるよ!」

 美穂ちゃんはすぐに、心からそう信じているのだというように、くるみちゃんに返事をした。
 ああ、と、私は思う。これが、アイドルなんだ。美穂ちゃんみたいに、まぶしくて――

「そろそろ休憩がおしまいになるから、またあとでね! 夕美さん、くるみちゃんのこと、お願いします!」

「あ、う、うん!」

 私は我に返り、返事をする。
 それから私は、くるみちゃんと一緒に、ダンスレッスンの見学を続けた。
 一生懸命に踊る美穂ちゃんと、ほかの参加者の皆を観ながら、私はそっと胸に手を置く。
 美穂ちゃんは、あんなにきらきらして、一生懸命で、それでも『お荷物』なのかな。
 ううん、そんなことない。だって、美穂ちゃんはあんなに魅力的で、キラキラしているんだから。
 ――じゃあ、私は?
 私は自問する。
 プロデューサーにも問われたこと。結局、私はその答えもまだ、出せていない。
 くるみちゃんは、さっきまでよりも真剣に、レッスンの様子を見つめていた。

2.小日向美穂 Gentiana scabra リンドウ(誠実) ・・・END



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