一ノ瀬志希「ママの気持ちになるですよ」
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39: ◆GO.FUkF2N6[saga]
2018/12/15(土) 17:21:07.99 ID:kZJKvpHt0
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 廊下からバタバタと走る音が聞こえる。
 ライブを成功させるため、スタッフが奔走している音だ。
 そして、それに負けないくらい、控室もドッタンバッタン大騒ぎ。

 右を見れば、自分のステージが終わって暇つぶしに談笑していたり。
 左を見れば、出番が来るまで台本を繰り返し音読していたり。
 下を見れば、走り回っている元気な子もいたり。

「仁奈ちゃんとなにかあったの?」

 こうやって、あたしに話しかけてくる物好きもいる。
 顔を上げると、へそ丸出しの大胆なドレスに身を包んだ奏ちゃんの姿があった。
 一歩間違えれば下品になりかねない衣装も、この子が着ているとすごく様になる。

「人の家庭の事情に首を突っ込む趣味はないわ。でも……」

 控室には3個ほどモニターが設置されていて、そこには様々な映像が流れている。
 ひとつには、ファンから声援を送られステージで踊っているアイドルたち。
 ひとつには、裏方で慌ただしく動いているプロデューサーやスタッフ。

 そして、奏ちゃんが見つめている先。
 舞台袖で出番を待つアイドルの姿が映されるモニターには、小さな体をさらに縮ませてぽつんと椅子に腰かけている、龍の着ぐるみの衣装を着た女の子の姿が映っている。

「かわいい新人があんなに震えているのは気の毒だもの」

「べつにー。来る予定だった仁奈ちゃんのママが来れなくなったから、来てもらうように電話しようとしたら怒られちゃった。それだけー」

 そういえば「おはよう」も「行ってきます」も言わなかったな、なんてことをいまさら思い出す。



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