3: ◆GO.FUkF2N6[sage saga]
2018/12/03(月) 17:48:39.50 ID:HUwosoqi0
「パパは今日も帰ってこないの?」
ママは困ったような表情をする。
「最近忙しいみたいだから、しばらくは難しそうね」
さみしい、と悲しいにおいを発するママに、だいじょうぶだよと首を振って椅子に座る。
パパがお家にいたのはもう1か月以上前のこと。
今頃はたぶん、研究室でパンをかじりながら実験の結果でもまとめているんだろう。
化学に非凡な才を持っているパパは、皺も目立たない年齢で大学の教授なんてやってて、毎日試験管や学生のレポートとにらめっこしている。
そして。あたしもそんなパパの血を引き継いでいるみたい。
ギフテッド。
周りの子がヒーローごっこやかわいいお人形に夢中だったころ、あたしのおもちゃは化学式がびっしりと詰まった専門書だった。
酸と塩基が交わって、塩と水にメルヘンチェンジするように。
既知から未知が生まれるその在り方に、あたしの心は強く引き付けられたのだ。
「志希はすごいね」
暇つぶしに解いた院試の答案用紙を見せると、ママは大げさに喜んであたしの頭を撫でてくれた。
ママはあたしやダッドのように化学に精通しているわけでも、IQが180以上ある天才でもない。
ぶらぼー、と騒がれるようなギフテッドなんてなにひとつ持たない、どこにでもいる普通の女の人だった。
あたしが書いている化学反応式の構造なんて、きっと半分も理解できていなかったと思う。
それでも、ママはにこにこと笑ってあたしの話を聞いてくれて。
そんなママのおひざで眠るのが、あたしの日常だった。
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