16: ◆U.8lOt6xMsuG[sage]
2018/10/19(金) 00:12:35.62 ID:TYKVB7XU0
会場は満員。照明はまだ落としてないけれど、僕の目には、緑色のペンライトが多いように見えた。いつものジャージの色が、いつもよりも多い。舞台袖からそれを確認してから、比奈の控え室へ向かった。
扉を開けると、椅子に座りヘッドホンで音楽を聴いている比奈がいた。煌びやかな衣装とパイプ椅子は、あまり似合わなかった。衣装は最高に似合っているけど
比奈は僕に気がついてヘッドホンを外す。その顔には、いくぶんか緊張が見えた
「そりゃあしまスよ」
「そりゃあするよねぇ……」
僕だって緊張しているんだから、比奈なんてこの何倍もしているだろうに。でも、比奈の顔には、緊張以外の色も見える。僕は比奈が見せるこの色を知っていた。楽しみ、期待のそれだ。
「比奈」
励ましの言葉も、緊張を解く言葉も、多分今の彼女には全て必要が無い言葉だ。言いたいことも、聞きたいこともない。けど、届けたいことなら、ほんの少しだけあるから。だから、こうして。
彼女の名前と共に、右手を差し出す。彼女は一度口角を上げたから、僕の手を掴んだ。手袋越しの熱が、僕たちの間に伝染する
言葉はなかった。視線を交わすだけだった。比奈が頷いて、手をほどく。ニヘラと笑って、彼女は控え室を後にした。
僕は、それを見送った。後ろ姿が、輝いている
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