86:名無しNIPPER
2018/08/12(日) 01:05:14.26 ID:w6V3e5/y0
「うまく行くかなって……歌えるかなって。それに」
なにか、不幸なことが起きないか。
それで舞台が台無しになったら。もう考えないようにしようと思っていたのに、土壇場でそんなことが頭をよぎってしまった。
「安心しろ」
プロデューサーさんは口を開いた。
「ブレーカーの傍に立っててやるから」
どういうことなんだろうか、意味を掴めかねていた私に、プロデューサーさんは続けた。
「だからブレーカーが落ちても、すぐ対応できるぞ」
意味が分かって、私は頬が緩んだ。
「ブレーカーの傍より、私の傍に居てほしいです」
「……ああ。ブレーカーの位置はちゃんと覚えておくから、すぐに走っていくよ」
「お願いしますね、プロデューサーさん」
プロデューサーさんは腕時計で時間を確認した。
私も壁にかかっている時計を見る。間もなく開演だ。
「おし、じゃあ……行くか」
「はい。行きましょう。プロデューサーさん」
頷き合ってから、私たちは控室を後にして、舞台袖に移動する。
客席から、ざわつきがこちらに伝わってくる。ひりひりする緊張感で、私はこわばった。
助けを求めるようにペンダントを握りしめ、静かに息をつく。
スタッフさんが、もう間もなくと声を掛けてきた。
「プロデューサーさん、行ってきます」
「ああ、行って来い」
そして私は、舞台の上へと飛び出した。
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