66:名無しNIPPER
2018/08/12(日) 00:39:28.54 ID:w6V3e5/y0
「ほたる……」
「どうかしたんですか、二人とも」
声に振り返ると、いつの間にかちひろさんが傍に立っていた。
私は小さく首を振った。
「いえ……なんでもないです。ちょっと外の空気を吸ってきますね」
私はプロデューサーの脇を抜けて、走り出した。
扉を抜けると、先ほどまでの熱気が嘘のように静まり返っていた。
お客さんたちはもうみんないなくなっていた。
空には月明かりに輝く星々。そして磯の香りに波の音。
私は道路沿いをゆっくりと歩き出した。少し歩くと、海沿いに出る。
堤防の階段を上り、息を呑んだ。
見渡す限りの海。
この辺りは岩場となっており、もう少し歩けば砂浜だった。
でもそこまで行く元気もなく、私は岩場をゆっくりと歩いていく。ごつごつとした岩に時折手を付きながら波打ち際まで歩いていく。強くなる潮の香りは、いよいよ私の全身を包み込むかと思うほどだった。
月光が水面を反射し、もう一つの夜空を地上に作り出してる。
その岩場の先端で、煌めくなにかが目についた。なにか石か――貝殻か。
(裕美ちゃんに持って行ったら、喜んでくれるかな)
貝殻なら、首飾りを作るのにいいかもしれない。裕美ちゃんなら綺麗なペンダントにしてくれるだろう。
でもそれは、貝殻ではなかった。なにかの鱗だった。とても大きな鱗で五百円玉よりも大きい。私は、それを持ちあげる。
薄く光沢を持つそれは、美しくもあり、同時に恐ろしくも感じた。
(なんの、魚のなんだろう)
こんなに大きな鱗を持つのだからどれだけ大きいのか。そんなことに気を取られてしまっていたからか。
足場のもろさに、私は気づかなかった。
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