5:名無しNIPPER
2018/08/11(土) 22:53:36.52 ID:S8sM1lda0
一生懸命走ったおかげで、なんとか待ち合わせの時刻に間に合った。
息を切らしている様子の私に驚くこともなく穏やかな笑みを浮かべていた受付のお姉さんに、プロデューサーさんの名前を告げると、お姉さんは内線を手に取った。
待つ間に、髪が乱れてないか確かめて。
(あれ?)
髪留めがなくなっていることに、私は気づいた。
誕生日石のバイオレット・ジルコンを桜の花びらの形にあしらった髪留め。
いつか、旅行先のお土産で買ったものだった。ずっと大切にしまっていたのを、この日の為につけてきた。新しい門出のために。
駅前で人とぶつかった時に弾みで取れてしまったのだ。それに気づかなかったなんて。
「えっ?」
受付のお姉さんは、電話口で眉間に皺を寄せた。
どうしたのだろうか。待ち合わせには遅れていないはず。不安を覚えて時計を確認したけど、やはり時間に問題はなかった。視線を戻した時にはお姉さんはなにもなかったように静かに微笑んでいた。それから、待っているように言われた。
椅子に座っている間、落としてしまった髪留めが気になって、何度も髪を手でなぞっていた。そうしていれば、いつの間にか元の位置についているかもしれないみたいに。
当然、そんなことはなかった。
プロデューサーに挨拶する前からこんな調子だなんて。私は小さく息をついた。
「白菊、ほたるちゃん?」
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