37: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2018/08/10(金) 00:20:06.95 ID:OipDTOFK0
○
「え、何か悪いことした?」
きょとん、とした顔で首をかしげているこの男こそが、私のかつての仕事相手である。
この私をスカウトし、アイドルとして育て、トップまで共に走り抜いた人物であり、一応恩人ということになる。
お互い駆け出しの状態から長い時間を共に過ごしたこともあって、引退した今でも、たまにこうして会うことがあった。
「こんなにばっさり切ったのに、反応がてきとー過ぎるでしょ」
彼の記憶には髪の短い私などはないはずだし、もう少し驚いてくれたっていいだろう。
「あー、いや。びっくりしてさ。咄嗟に言葉が出なくって」
「ふーん」
懐疑的な眼差しで串刺しにしてやり、「それで?」と追い討ちをかける。
「いや、綺麗だよ。よく似合う。素敵だと思う」
こうもストレートに返されては、困ってしまう。
真正面からの攻撃に対しては、反撃の用意がなかった。
「そっか」
「ところで、どうしたの。そんなばっさりと」
「んー。特に理由はないんだけどさ。やってみたかったんだよね」
「やってみたかった?」
「うん。周りを気にしないで街を歩く、っていうの」
少しの沈黙の後に、彼は「そうか」と言った。
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