杉山「大野なんて死ねばいいのに」
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7: ◆wIGwbeMIJg
2018/08/03(金) 12:50:24.87 ID:GdHGw1+H0
気まずげに頭をかいている大野を横目に、部屋の隅に積み重ねってあった雑誌を一冊手に取ってベッドに腰掛けた。

杉山「いいなぁベッド、俺毎日大野の家に泊まりにきちゃおうかな。」

大野「ぜってー来んなよ」

手に持った雑誌の表紙に並んだ文字に目を泳がせると、良く分からないけれどなんだか物理という二文字は追える。

杉山「うわなんだこれ、めちゃくちゃ難しそう」

思わずそうつぶやくと大野も隣に腰掛けてきた。

大野「笑っちゃうよな、俺理科、満点逃したんだぜ。」

そう自嘲気味に笑った大野に嫌味か?と問いかけたくなったが、大野は俺のあの時の心境なんて知る由もなく。

俺は黙ってその横顔を眺めた。
大野は東京を知っている。
東京がどうとかじゃなくて、外の世界を知っているんだ。
学校内なんか、俺なんか競争相手にすら思っていなさそうな瞳だった。
俺は手に持った到底理解不能な雑誌開き、そして、大野に対する劣等感や焦燥感がまた酷く湧き上がってきたのに気がついて慌てて本を閉じた。

杉山「…なぁ大野、教えてくれるんだろ?俺に宇宙のロマン。」

大野「聞いてくれる気になったか?」

杉山「聞きたくないなんて最初から誰も言ってないだろ。」

俺は、できるだけ大野が見ているものを一緒にみていたいと思ってたし、大野だって俺に同じ夢を見てほしいと思っているに違いなかった。
これは驕りでも何でもない、ただの確信。

大野「…離れてても」

そこで不自然に大野が言葉を途絶えさせた。
何かを思い出していようだった。

杉山「え?」

大野「離れていても空は繋がってるっていうだろ」

杉山「…。」

大野「俺さ、そんな言葉それまで気にも留めたことなかったんだけど、引っ越してからやっと意味が分かって」

杉山「…大野」

大野「東京の地面ってさ、すげえ込み合ってるんだよ。足ばっか。しかも超忙しそうなの。駅だって道だってどこもかしこも人人。見上げる空も狭く見えた。」

大野「でもさ、ビルをかき分けた向こうって、本当に広くて障害もなくて。」

大野「俺思ったんだ、空ってすごいよなとか、あの雲どこから来たんだろうとか。」

大野「考えたら止まらなくなった。親にねだっていろんな本買ってもらったしこの俺が図書館にばっか行くようになったんだぜ?向こうの友達と遊ぶこともそっちのけでそればっかだったよ。」

大野「次第にさ、思い始めたんだ。空の外側って、宇宙って、何なんだろうって。」

そう言って曇らせていた顔を変えて大野が前を向いた時、そうか、と思った記憶がある。
俺や静岡を恋しく思っていた大野は、きっと繋がっているであろう空を見上げて俺たちに思いを馳せていたんだ。
でもそれがいつからか俺たちよりももっと向こうの向こうへの情熱にすり替わっていったんだ。

大野「これもよく言うだろ、宇宙に比べたら俺なんてなんてちっぽけなんだろうって。本当にそうなんだよ。ちっぽけなんてこ言葉でもまだまだ大きいくらいだ。」

なにか、俺には大野の中に宇宙よりも深い闇が見えた。

杉山「…大野」

大野「ん?」

杉山「思い悩んでることがあったらすぐ言えよ」

大野「…サンキュ」

その夜、俺は大野の家で晩飯をご馳走になった。
大野の父さんは、帰ってこなかった。


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