杉山「大野なんて死ねばいいのに」
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57: ◆wIGwbeMIJg
2018/08/07(火) 02:26:33.93 ID:KfRt/2pU0
棺に群がったみんなが口々にお別れの言葉を口にする。
俺が近づくと、なぜかそいつらは一斉に棺から捌けた。

「…大野」

衛生上良くないことは知っていたが、死にはしないだろうと思い大野の死に顔に口づける。
これは決して愛のキスなんかじゃない。

俺は大野を愛してると思ったことなんて、たったの一度もないのだから。
ただ、これは、一遍しかない生涯を俺にささげた哀れな男におくる、弔いの言葉のかわりだ。

杉山「…俺まだお前の事嫌いだよ」

頬に伝った一筋の涙に、俺はその時気が付かないふりをした。



後日、大野のお母さんに呼び出された俺は驚く。
家は寂しげにガランとしていて、かわりに大野のお父さんがいたのだ。
大野がこっちに戻ってきてからは、一回も見たことがなかった大野の父さん。

杉山「おばさん、おじさんと…」

「あら、ふふ。勘違いさせちゃってたわね。もともと離婚なんてしてないわよ?」

大野の母さんは、大野を生んだだけあって綺麗だ。

え、ならなんで清水に。
そう言おうとして、止めた。
聞かなくてもわかった。
きっとたぶん、最初から…

「こっちに来たのはね、完全にケンちゃんのわがまま。普段わがまま言わないような子な
のに、清水に行けないならもう何もしないなんて言ってきかないものだからお父さんと相談してこうしたの。」

「だから私、東京に戻るのよ、今は引っ越しの準備中。」

大野の父さんは、そこにある段ボール全部けんいちの本だから車で一緒に送っていくよと俺に笑った。

「だからね、今日から暫く杉山君にも会えないわけだし…最後にケンちゃんとのお話、聞かせてほしいな。」

ケンちゃんは、どうだった?
最愛であろう息子を失って泣き叫ぶでもなく静かに笑うこの人が、夜にひっそりと泣いているだろうことを思うと胸が痛い。

杉山「あいつは…皆から好かれてましたよ」

「杉山君は?」

杉山「へ?」

「杉山君は、ケンちゃんのこと好きでいてくれたの?」

杉山「…はい」

俺は、その時嘘をついたつもりでいる

「ありがとうね」

新しい住所は教えてもらったものの、俺はいまだに大野の墓の場所すら知らないし、おじさんやおばさんにも会っていない。

そして、大野の遺書もまた、開くことが出来ていなかった。



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