川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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33: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:12:15.03 ID:Ai+XpKnp0
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会場は、都内の小さなライブハウスだった。
346プロダクション所属、という肩書きも霞んでしまうような。

瑞樹は最初のライブを思い出し、自分がどれだけ優遇されているかを実感した。
そんな自分を見ている、他のアイドルの気持ちも、察しがついた。
だから、楽屋の前で足が震えた。

私には、アナウンサーっていう保険があって。
テレビ局やプロダクションのバックアップまで、ある。

罪悪感で胸が押しつぶされそうになった。
とても、ドアを開けられそうになかった。

「邪魔よ……」

びくり、と肩を震わせて、瑞樹は振り返った。
柊志乃。楽屋の外にいたのだ。

「あっ……おつかれさまです」

「LIVE前につかれてどうするのよ」

志乃はふっとほおを緩めた。
だが顔色は良くなかった。元々が色白だが、そこに病的な青みが差している。誰がどう見ても、体調をくずしているのがわかる。

「柊さん、お身体……」

「不調よ。絶不調。
 頭は痛いし吐き気もするわ。

 念のため言っておくけど、二日酔いではないから」

志乃は髪をかきあげて、ドアに近づいた。

「やるんですか、LIVE」

「やるわ」

「また今度にするのは……」

そう言った瞬間、瑞樹の肌の表面が、ぷつぷつと沸騰した。
相手の感情を、心よりも、頭よりも先に感じ取って。

「また今度」

志乃は、ひどく低い声で呟いた。だが、瑞樹はそれが、廊下中にも響き渡るように聞こえた。

「私に……私達に“また今度”、なんてないわ。
 この一瞬を全力でやるしかないの。たとえどんなに不格好でもね」



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