川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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28: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:07:21.18 ID:Ai+XpKnp0

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「もしもし楓ちゃん? 
 みずきちゃ……川島さんおごってくれるって! 
 
 え……?
 飲み会ですよ飲み会! パァーッとやろうよ! おごりなんだから!」

早苗がそう電話すると、楓は居酒屋まで、まさに飛ぶようにやってきた。

「川島さんっていいひとだったんですね……」

知らぬ間に注文した焼酎をロックで鳴らしながら、楓が言った。
店で一番高い焼酎だった。名前の通り、瑞樹の財布に悪魔的な打撃を与えるだろう。

でも、こんなことで仲良くなれるなら。

瑞樹は知っている。
少女を過ぎると、いや少年でも、新しいひとと深く交わるのに億劫になる。臆病になる。
友達をつくるのが、むずかしくなる。

瑞樹は楓に微笑みかけた後、早苗のほかに、もうひとりのアイドルの方を見た。

濡れているような、爛々と艶のある黒髪が垂れている。
瞳は、どこか眠たげにほそめられ、退屈なのか、たのしいのか区別がつかない。
小さく、それでいて肉感的な唇。

その唇に、ワインがすいこまれていく。

「あの……」

瑞樹は相手の名前を知らない。早苗も教えてくれなかった。
その女は、グラスとの口づけを一旦止め、目をさらに細めた。

「私は、“あの……”なんて名前じゃないわ……あなたは?」

「ええと、その、川島瑞樹です」

瑞樹は口ごもった。相手の感情が、ちくちくと自分の肌を刺すようだ。
思い当たる節がないわけではない。

「ええ、知ってるわ。あなたは、有名ですものね……」

女は、またワインを飲む。
明らかに、瑞樹との会話をいやがっている。
それでも瑞樹は無視して早苗や楓と談笑するわけにもいかず、相手をしばらく見つめた。
早苗と楓は、電子端末でメニューを“高い順”で表示し、液晶でピアノを弾くようにしている。



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