25: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:04:41.00 ID:Ai+XpKnp0
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手紙を読んだ3日後から、瑞樹はレッスンや仕事がないときでも、プロダクションに顔を出すようになった。
自分がどんなアイドルになりたいのか。何者になりたいのか。
今はまだわからない。
そこで瑞樹は他のアイドル達と話をしてみようと思った。
プロデューサーからの提案もあった。
「周りを見て180度変わるひともいますし、360度まで回っちゃう子もいますよ」
瑞樹が346プロダクションのホールを歩いていると、1人の女と出会った。
半身を柱の影に隠し、若草のような艶のある髪をふわふわと揺らしながら、翡翠色の瞳で瑞樹を遠巻きに見ていた。
瑞樹はその相手の名前を知っていた。
高垣楓。モデルとして、少し前まで流行っていた女。
その女が、何故自分を見ているのだろうか。
「あの……」
瑞樹が柱に近づくと、楓はさっと柱の裏に全身を隠した。
瑞樹が裏に回ると、楓はさらにその裏に回った。
柱を時計回りに5周ほどしたあと、瑞樹は急に反時計回りに身を翻して、楓を捕まえた。
「なぁ〜にをしてるのかしら?」
「そちらこそ……」
やや不機嫌な声で、楓が返事をした。りん、と響くような声。
瑞樹はまじまじと、相手の顔を見つめた。
左目の下には泣きぼくろがあって、みずみずしい唇が横にむっつりとしている。
瑞樹がさらに目をこらすと、翡翠と蒼氷の瞳が瑞樹を見つめ返した。
どきり、とした。
「私に、なにか用?」
「川島さんこそ、プロダクションに何か御用でしょうか」
会話の堂々巡り。
瑞樹は相手が、自分に対してあまりよくない感情を持っているのを肌で感じた。
そこで、瑞樹は楓の手に手錠をかけるような素振りでこう言った。
「御用だ御用だ〜」
瑞樹としては、あまり上出来ではない、と思っていたが、楓はきゅっとくびれたウェストを抱えて、笑い出した。
「お腹いたいです……ふふっ…!」
「いたがきかえで?」
楓がさらに身体を丸めて、遂には床に転がった。まるで子猫のようだった。
楓はしばらく笑い転げたあと、すっくと立ち上がって、瑞樹を指差した。
「こ、これでかったとおもうなよー……」
棒読みでそんなことを言ったあと、楓はぱたぱたと立ち去った。
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