23: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:03:28.77 ID:Ai+XpKnp0
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「おつかれさま」
悲惨なミニライブから逃げるように帰って来た瑞樹に、早苗が言った。
瑞樹はレッスンルームで衣装のまま、座り込んでいた。
泣いてはいない。だが、泣くよりも、見る者の心が締め付けられるような表情だった。
「……こんなはずじゃなかったわ」
「みんなそう言うわ。
そう言った先輩を見て、自分は違うと思っても、結局ね」
早苗は肩をすくめた。
「天使と一緒に遊べなかったのね」
「私はまだ人間って、そういうことかしら」
瑞樹も肩をすくめた。やや、表情がやわらいでいる。
心と頭と表情を切り離す。アナウンサーの習性が遅れて、こんなときに顔を出す。
「また明日から仕切り直しね。
今からのこのこアナウンサー業に戻れるわけじゃないし」
プロジェクトが始まってから、瑞樹が担当していた企画は後輩達が引き継いでいる。大きな顔をして“出戻り”はできない。
「わかってるとは思うけど…レッスンを厳しくしても、瑞樹さんの課題は解決しないわよ」
「そうね…私もそう思う。場数を踏まなきゃね」
瑞樹がそう言うと、早苗が、あー、と声を出した。
「なによ」
「場数とか経験とかの問題じゃないの。もっと……」
「内面?」
「“川島瑞樹はどんなアイドルを目指したいのか”」
早苗が声をわざと低くして、瑞樹にささやいた。
「目指すって……私はまだ女子アナよ?」
「テレビ局の企画でもさ、作らなきゃ。
じゃないと多分、同じ失敗するよ。
自分がどんなふうになりたいのか何を表現したいのか。
それがわかってなかったら、パフォーマンスも何もないわ」
アイドルの先輩として、重い言葉だった。
だが、瑞樹はすぐに答えが出てこなかった。
憧れはあったとはいえ、なしくずし的にここにいる。
いままでは渡されたものをこなすだけでよかったのだ。
ニュース原稿。番組の脚本、アナウンスの台本……。
社会人になってから、自分でものを考えてなにかする、という経験があまりにも浅い。
仕事に個性も私情もなかった。
その弊害が、今になって現れている。
「早苗さんは、どんなアイドルなの?」
瑞樹は早苗に尋ねた。間髪入れずに答えが返ってきた。
「夜中にジョッキビール飲んでも叩かれないアイドル」
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