川島瑞樹「ミュージック・アワー」
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22: ◆u2ReYOnfZaUs[sage]
2018/08/01(水) 01:02:46.53 ID:Ai+XpKnp0
瑞樹はステージに向かった。足取りはぎこちない。
とうとう、本当のライブ。場所は郊外のショッピングモールの一角。

“あの”川島瑞樹。客は集まっている。
1階だけでなく、2階、3階からも瑞樹を見下ろす人たちがいる。
ざっと見積もっても数百人。ミニ、という修飾語が冗談に聞こえてしまう。

そして、今日はテレビ局のカメラも。

瑞樹の足に震えが走った。
人前でパフォーマンスをするのは、苦ではないと思っていた。
だがアナウンスの時とは全く違う。

ごまかしがきかないわ。ここは、明るすぎて。

瑞樹の全身が、つまびらかになる。
肌がちくちくと痛いのは、照明ばかりのせいではない。

視線が、刺さる。

「今日は、川島瑞樹の初ライブにお越し頂き、ありがとうございます」

言葉は淀みなく出る。貯金はまだ使えるようだ。

「アイドルとしては駆け出しですが、今日は全力を尽くします。
 それでは、始めましょう」

音楽がかかる。

ステップ……。だが、瑞樹の身体は出遅れた。
小さな歪み。そこからパフォーマンスが、いびつになる。

ダンスが崩れれば、呼吸が乱れる。
呼吸が乱れれば、歌も狂う。
歌が狂えば、ダンスのリズムがおぼつかなくなる。

失敗、失敗。

瑞樹の頭が真っ白になる。
鼓動が自分でも聞こえるほどに大きくなる。

立て直さなきゃ……。

その焦りがさらにミスを誘発する。
ステップが鈍くなり、歌詞が飛ぶ。
ガラスの靴に、大きなヒビが入る。

やがて、瑞樹はステージに尻餅をついた。

立たなくては。だが、足がもつれてうまく立ち上がれない。
目眩がする。景色がぐにゃりと揺らぎ、吐き気がする。

観客達の顔。不安、失望、嘲笑………。

かろうじて、涙はこらえる。
その後、瑞樹は何もすることができずに、音楽が終わった。



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