【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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192: ◆6yAIjHWMyQ[saga]
2019/03/19(火) 17:23:16.96 ID:1VtF/uQA0


 程なくしてガラス越しに人影がみえた。ぴたぴたと張り付くような音が微かに聞こえる。

 影は小さくなり、カタン。左へ移動しまたカタン。大根をゆっくり輪切りにした時の音に近い。

 そして戸車の回り擦れる音を響かせながら、二枚の扉は左右に離れていく。その間から現れた人間は――――。


「烏山、待っていたよ。」


 聞き覚えのある声だった。その声はカシミヤのように柔らかく、そして軽く弾んでいた。

 見覚えのある顔だった。下手に化粧を施せば価値が失われるであろう肌と顔立ち。

 その顔には黒曜石が如き双眸と眉が、高い左右対称性で配置されている。あまりに整い過ぎて地味な印象さえあった。

 豊かな黒髪からつくられた一本の三つ編みが陽光の当たらぬ影の中で、蜜蝋でも塗られたような光沢を放ちながら、胸元へ垂れ下がっている。

 枯れた蔓が赤褐色で描かれた、黒茶地の着物を纏った女がそこにいた。


「――――」


 心臓が、自壊してしまいそうなほどに大きく鼓動を刻み、一瞬停止。

 眼球がころりと抜け落ちてしまうのではないか。そう自覚できるほどに私の瞼は開かれた。きっと瞳孔も散大しているに違いない。

 口内が粘つく。朽木がねじ込まれ、そのまま張り付いたかのように喉が窄まる。水分が体の中心へと向かっていく感覚があった。

 その感覚に乗じて、烏山提督とこの女に気取られないように息を吸う。慎重に吐く。女の姿を見た瞬間から反射的に握りこんでいた拳が、弛緩していくのがわかった。

 最前線の第一艦隊から長く離れていたこともあってか、不測の事態が起こってからの、精神の立て直しに、あの頃よりも時間がかかっている。




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