【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝
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193: ◆6yAIjHWMyQ[saga]
2019/03/19(火) 17:24:28.96 ID:1VtF/uQA0


「それが本当なら、門衛に誰が来るのかをしっかり伝えてあげてやれ。狼狽していたぞ。」


 隣から聞こえる、男の語気鋭い声。菊月達と話すときの調子とは違う。私は知らなかった。


「不測の事態にも対応できるように鍛えてあげる。この親心が分からないかなぁ。」


 女の眉根に一瞬皺が刻まれたが、すぐに戻った。しかしこの対応はまさに暖簾に腕押し。私の知らない、彼女の応対だった。


「そして初めまして。君が曙さんに会いたいっていう荒潮さんだね。」


 女は相対するように私へ体を向き直し、腰をかがめた。視線が合う。懐かしさが鼻先を仄かにくすぐる。甘くスパイシーな香り。

 頭をよぎるのは『澪標』。秘書艦を必要としない彼女が愛用していた、恐らく最初で最後の秘書艦になったときに聞いた、香水の名前。


「ボクはここの提督で、雲林院っていいます。どうぞよろしく。」


 手を差し出される。握手を求めているのでしょう。右手を差し出す。陶器のような見た目から放射されたこの熱の感触を、私は知っている。


「手、冷たいね。烏山、荒潮さんに防寒着を用意しなかったのかい?」


 女の視線が烏山提督へと向けられる。私はその視線をたどる。


「合うものがなかったんだよ。」


 目をそらされた。4つの瞳の圧力に屈してしまったのかしら。合うものがなかったのは確かだけれど。


「そっか、じゃあ仕方ないね。ささっ、上がって上がって。」


 女は身を翻し、扉の内へと進む。続く烏山提督の背後に、私もまた続く。




 予想外の出来事というものは得てして確認不足によって起こる、と思う。

 確かめてもらったのは今の曙の提督の名前が、旧世界の曙の前の提督の名前と一致しないということだけだった。自分のその浅慮さを恨む。

 いや、これは見様によっては好都合だ。曙の様子とこの女の様子を一度に把握できる。

 あなたを見極めよう。かつて、あなたの麾下にいたこの私が。





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