7: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:47:35.09 ID:ema8T1+O0
叫ぶ彼女はやはり音が濁る。
濁点だらけの彼女の声はやはりアンチョビそのものだ。
ファンだというだけでこれほど似せられるものなのだろうか。
あぁ、ひょっとして声優の卵だったりするのだろうか?
8: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:49:11.49 ID:ema8T1+O0
俺が疑いの眼差しを向けているのに気付いたのだろう、彼女は少し棘をおさめ、座椅子に尻をつけた。
「なんとなく、嘘をついてる感じじゃないな」
むしろ嘘をついているのはそちらなのでは、と言いたくなる気持ちをおさえ、「ホントのことしか言ってないですよ」と答える。
9: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:51:00.26 ID:ema8T1+O0
――――。
まさかとは思うが、本当に?
「……あの子たちって? 誰のことですか?」
10: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:53:05.37 ID:ema8T1+O0
彼女はアンチョビだ。認めるしかない。
一体何が起きているのか俺には理解できないが――特徴的な髪の色、声質、語り口、姿形、知識。全てが全て、彼女がアンチョビであると示している。
一片の曇りもない。
11: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:55:26.88 ID:ema8T1+O0
自宅から徒歩1分のコンビニで、適当なペットボトル飲料を5種類ほど購入して戻る。
アンチョビは座椅子に座って『私の少年』を読んでいた。
「どうぞ、選んでください」
12: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:56:40.11 ID:ema8T1+O0
「本棚の、『私の少年』が並んでいる二つ下の段を見てください。そこに『ガールズ&パンツァー劇場版ハートフル・タンク・アンソロジー』という本がありますね」
「うん、あるな」
「手にとってみてください」
13: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:59:23.14 ID:ema8T1+O0
一つ一つ、探り合うように互いの認識を共有していった。
ガールズ&パンツァーとは。
戦車道とは。学園艦とは。大洗とは。
アンツィオ高校とは。アンチョビとは。
14: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:00:26.28 ID:ema8T1+O0
自分は物語の中の、創られた存在だと判明したのだ。
そりゃあしんどいだろうと思う。
俺だって、今いるこの世界が小説の中の一ページだと言われれば、きっと自分の存在意義に苦しむ。
15: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:02:43.39 ID:ema8T1+O0
「いらっしゃ――」
うどん屋の主人は、俺の背後に目を向けた途端に声をつまらせた。
が、無理矢理に「いませー」と言葉を繋げると、俺たちを二人がけの席へと案内する。プロだ。
16: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:04:39.19 ID:ema8T1+O0
うどんが届き、互いに箸へ手を付ける。
薬味をからめた透き通るような麺が美味だ。
「アンチョビさん、これからどうするんですか」
17: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:05:58.04 ID:ema8T1+O0
「アンチョビさん。なんでしたら、うちを拠点にしてくれても構わないですよ」
「え?」
アンチョビの顔に生気が増す。
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