12: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:56:40.11 ID:ema8T1+O0
「本棚の、『私の少年』が並んでいる二つ下の段を見てください。そこに『ガールズ&パンツァー劇場版ハートフル・タンク・アンソロジー』という本がありますね」
「うん、あるな」
「手にとってみてください」
13: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 21:59:23.14 ID:ema8T1+O0
一つ一つ、探り合うように互いの認識を共有していった。
ガールズ&パンツァーとは。
戦車道とは。学園艦とは。大洗とは。
アンツィオ高校とは。アンチョビとは。
14: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:00:26.28 ID:ema8T1+O0
自分は物語の中の、創られた存在だと判明したのだ。
そりゃあしんどいだろうと思う。
俺だって、今いるこの世界が小説の中の一ページだと言われれば、きっと自分の存在意義に苦しむ。
15: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:02:43.39 ID:ema8T1+O0
「いらっしゃ――」
うどん屋の主人は、俺の背後に目を向けた途端に声をつまらせた。
が、無理矢理に「いませー」と言葉を繋げると、俺たちを二人がけの席へと案内する。プロだ。
16: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:04:39.19 ID:ema8T1+O0
うどんが届き、互いに箸へ手を付ける。
薬味をからめた透き通るような麺が美味だ。
「アンチョビさん、これからどうするんですか」
17: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:05:58.04 ID:ema8T1+O0
「アンチョビさん。なんでしたら、うちを拠点にしてくれても構わないですよ」
「え?」
アンチョビの顔に生気が増す。
18: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:07:34.47 ID:ema8T1+O0
「――まぁ、助かるなら、決まりですね」
悩んだところできっとアンチョビの答えは変わらない。
だからさっさとそう言ってしまうと、彼女もすぐに言葉をかえした。
19: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:09:02.26 ID:ema8T1+O0
「じゃ、そうと決まれば時間もない。とりあえず日用品を揃えなきゃいけないよな。俺が買うのも何だから安斎さんの方で見繕ってきてよ」
「安斎じゃない! アンチョビだ!」
「あぁ、そこはアンチョビで通すんだ。了解です。はい。アンチョビさんで」
20: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:11:10.06 ID:ema8T1+O0
「店を出て右手へずっと歩いて行くと――ええっと、でっかいショッピングモールがあるから。アンチョビさんはそこで必要そうなものを買ってきて。俺はその間に部屋を片付けとくから」
「お、おう」
「まぁまずはお金を卸しにいきますか。あんまり手持ちもないので」
21: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:13:39.58 ID:ema8T1+O0
アンチョビが我が家へ戻ってきたのは4時間後――16時頃のことだった。
部屋の整理も初めは2時間もあれば終わるだろうとたかをくくっていたのだが、漫画を段ボール5箱ほど詰めたところで時間切れとなった。
処分する漫画の選別をしたり、懐かしくて読み返したりなどしていたせいである。
つくづく駄目人間だ。
22: ◆JeBzCbkT3k[saga]
2018/07/15(日) 22:16:38.05 ID:ema8T1+O0
さて、これで居住空間は確保できた。衣食住の、『住』だ。
寝具についてはあいにく寝袋と毛布くらいしかなかったので、注文した布団が届くまではこれで我慢してもらう。
俺のベッドは同人誌や脱ぎ散らかした衣類だらけの寝室にある。申し訳ないけれど貸すことはできなかった。
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