31: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2018/07/07(土) 16:34:26.69 ID:LgMjPCNT0
「あの頃は私、まだアイドルにだってなり立てで、色んな嫌なことからも逃げたくて。
そこに、プロデューサーがあのお仕事の話を持ってきたの。雪歩にピッタリの物語だって」
「それも、やっぱり木無塚さんが当て書きで?」
「そうだよ。……貰った脚本には私のことが書いてあった。
色んな言い訳を並べ立てて、嫌な物や場所から逃げようとする弱虫な私が主役だった」
琴葉さんの質問に答えてから、
目を伏せた雪歩さんは手元の湯飲みに口をつけた。
だけど、淡々と語る彼女の喋ってる意味が私にはちっとも理解できない。
少なくとも大半のシーンにおいて、劇中の彼女は強い意志で周りを引っ張って、
頑固に夢を追う熱い人間に思えたから。
とても演じた本人が言うような弱虫になんて見えなかった。……なのに。
「だからきっと、今の私にもう一度あの演技をしろって言われても……。
出来ないと思うし、それを紗代子ちゃんのお手本にしてもらいたくもないな」
「それは、あの演技が思わぬ会心の出来栄えだったから?」と琴葉さん。
でも雪歩ちゃんは小さく首を振ると。
「ううん、違うの。……生意気なことを言うようだけど、私はきっと、あの頃より強くなってるから」
彼女は、私と琴葉さんの顔を交互に見比べこう言った。
「だからもう二度と、あの日の演技は出来ないんだ。……真似する事なら、今でもできると思うけどね」
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