【たぬき】佐久間まゆ「さくまあそばせ」
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103: ◆DAC.3Z2hLk[saga]
2018/06/23(土) 00:58:57.15 ID:m1XId8Ww0


   〇


 昔々あるところに、一人の少女と一匹の馬がいた。
 農家の一人娘であるその少女は、家の飼い馬をたいそう可愛がったそうだ。
 やがて、一人と一匹の間に特別な感情が生まれた。

 愛情である。

 言葉など介さずとも通じ合うものがあったのだろう。
 やがて彼女らは誰にも知らせず、誰にも祝福されることのない婚姻関係を結んだ。

 当然、馬と人の婚姻など許されるわけはなかった。

 激怒した少女の父は、その日のうちに馬を叩き殺し、庭先の桑の木に吊るしたそうだ。
 少女はそれはもう悲しんだ。愛した馬の死骸に取りすがり、報われぬ愛の行方に涙を絞り尽くした。
 父はそれをも疎んじ、夢見がちな娘の妄想を断ち切らんとしてか、馬の首を切り離したそうである。

 少女はそれでも、愛した夫の生首から離れることはなかった。

 やがて馬の首は天へと昇り始める。呆気にとられる父の目の前で、娘と共に馬の首は空へと消えていったそうだ。

 そして一人と一匹は、桑の木を依り代とする夫婦神となった。
 

 後から調べてわかったことだが、おしらさまとは、そのような異類間の悲恋を起源に持つようだ。





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