28: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/06/11(月) 20:40:41.87 ID:4HE2LzfA0
「お父さんを泣かせるようなことしちゃあダメよ」
母の放ったその言葉で、不意に環ちゃんの笑顔が浮かびました。
――膝の上に乗せていた両手を無意識のうちに組み直す。
それは長年に渡って押さえつけてばかりいた躊躇いを、自分自身の心から追い出すように。
「……それじゃあ、お母さんは一生独身でいろって言うの?」
父が思わず腰を浮かす。
口端を上げた母が私を一瞥する。
――とうとう言ってしまったとそう思った。
後悔と興奮、二つの感情がやり直しの効かない発言と共に私の体を駆け抜ける。
案の定、我に返った父は大きくその身を震わせて。
「歌織!? まさか、既にもう――」
でもすぐに、母が片手を上げて遮った。
「強がらなくったっていいのよ歌織。孫についてはもうとっくに諦めてるんだから」
言って、彼女は半眼で父のことを見やり。
「でももう一度子育てをするぐらいなら、遠慮せずに弟を生んでおくんだったわ」
その一言が、どれほどのショックを彼に与えたことか。
「母さんそれは……。い、今言う話じゃないだろう?」
「ええ、ええ、そうでしょうね。夜になったらタップリ話し合いましょう?」
「母さんっ!!」
そうして後に続いた夫婦のやり取りが、どれほど私の頬を染め上げたかを――
詳しく説明する必要は、どこにもあるワケが無いですよね?
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