【モバマスSS】愛を知らない一ノ瀬志希と彼らの巡礼の旅
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:52:44.14 ID:dFhLHRCO0
次に俺が訪れたのは、何の変哲も無いファミリーレストラン。しかしここは、先ほどのライブに参加するアイドルを決めるオーディションに、無事合格したことを祝う……という題目で志希が俺に夕飯を奢らせた場所だ。
いつも通りの飄々とした態度を取っているつもりだったのだろうが、オーディション前に指先が震えていたのも、初めてリベンジというものに挑戦し、本気になることが出来た自分に驚いていたのも、それに喜んでいたのも、知っている。
それでいい。俺はそう思った。如何に天才が空飛ぶ鳥の如きものだとしても、羽ばたかなければ地に墜ちる。志希は、天賦のそれに胡座をかいていて良い存在ではないのだから。
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:53:30.00 ID:dFhLHRCO0
その次に訪れたのは、とあるレコーディングルーム。
初めて志希が、自分のソロ曲を収録した場所。
歌詞に一通り目を通した志希が小さく、「昔のアタシならやったのかな」と呟いたのを、俺は聞いていた。しかしその真意を問うてはいけないような気がして、何も聞かなかったことにしたのだが。
描き出される狂気の沙汰とすら見える情念。それを理解しているのかいないのか、どちらにせよ志希は、この歌を自分のものにしてみせた。顧客に求められているものと完全に合致する形で、これ以上無いほどにひとつのアイドルとしての姿を打ち出した。
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:54:03.83 ID:dFhLHRCO0
次は、都内のとあるビル。流石に中に邪魔する訳にはいかないから、近場の喫茶店へと入る。ここはアイドルとしての志希が初めて挫折を味わった場所。新人アイドル達の登竜門と呼ばれるとある番組のオーディションで、志希はその時の全力を尽くしたにも関わらず選ばれなかった。
人気は右肩上がり、今をときめくアイドルとして名前が売れ始めて少しばかり調子に乗っていた面もあったのか、暫くは珍しく落ち込んでいた。
しかし志希は天才にしては立ち直りが早い方で、すぐにリベンジの為のレッスンに身を投じ始めたのだが。
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:54:48.63 ID:dFhLHRCO0
その次は、小さなライブハウス。ここはアイツが初めてライブをした場所。志希にとっての大きな転換点のひとつだ。
終了後、楽屋でアイツは興奮冷めやらぬまま「アイドルって分かんない!」と言い放った。アイツにとっては最大の賛辞だろう。
どこまで行っても唯一解は存在しない世界。それが化学の世界で生きてきたアイツにとってはとても新鮮で、興味深いことだったらしい。
……確か、アイツが俺への興味をやたらと強くしたのもこの辺りからだったか。
正しく猫のようなもので、仕事をしていると構ってもらう為に邪魔をしにくるし、何を考えているのかも分からない気紛れな生活をしている。振り回されるこちらの身にもなって欲しいものだ。
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◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]
2018/05/30(水) 01:55:36.36 ID:dFhLHRCO0
考えてみれば俺は何故、志希のプロデューサーであることを選んだのだったか。そもそも何故、俺の様な者がアイドルのプロデューサーをやっているのだろうか。
もしこれを考えさせることが志希の……あるいは鷺沢の狙いだったのならば、俺は見事にその術中に嵌ってしまっていることになる。
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◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]
2018/05/30(水) 01:56:20.69 ID:dFhLHRCO0
昔から、よく人に言われる。
何をそんなに妬んでいるのか、と。自分より優れた能力を持つ者が目の前にいると、どうしても嫉妬してしまう癖が、昔からあった。
俺には、自分を輝かせることの出来る才能が、何ひとつなかったから。小学校より以前から、何かで一番になった事が無かった。努力しても、努力しても、必ず上には上がいる。
それが堪らなく、悔しかった。才能がある癖に努力を怠る奴を見ると、反吐が出るような思いさえした。
以下略
AAS
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◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]
2018/05/30(水) 01:56:54.26 ID:dFhLHRCO0
この事務所の社長に拾われたのは俺の人生において最大の幸運であり不運だっただろう。プロデューサーという職業は俺の天職で天敵だった。
人を導く事自体は、別に嫌いじゃない。担当しているアイドルが壁にぶつかりながらも成長してゆく光景を見るのは、好きだ。
しかしそれと同時に、この業界には余りにも才能が溢れている。何かしらの才を持たぬ者は、ここには入れない。そんな環境の中で、俺は身を焼くような嫉妬と憎悪に苛まれた。
何度も何度も、己の担当アイドルにさえも。何故俺にはあのような才能が無いのか。羨ましい。妬ましい。ああ、しかし、その輝きを磨く手助けをせねばならないのもまた俺であり、俺自身もそれを望んでいる。
そんな自家撞着を繰り返しながらも、なんとか今、人としての形を保っている。
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:57:32.56 ID:dFhLHRCO0
しかし、そんな俺がよりによって指折りの天才……ギフテッドたる一ノ瀬志希の担当をしている。
我ながら滑稽な事だが、実のところアイツをスカウトしたのも、担当したいと進言したのも、俺自身だ。
脳裏に志希を思い浮かべる。
アイツはいつも笑っている。気紛れに俺をからかっては、ころころと喉を鳴らすように。アイツの側にいると、劣等感で頭がどうにかなってしまいそうになるのに、心の底で、アイツの側に居たいと思っている俺がいる。
他のアイドル達には傷付けてしまわないように距離を置いているのに、志希にだけは何故か……
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:58:07.57 ID:dFhLHRCO0
あぁ、ちくしょう。
分かっていたことだろうに。
気付いてはならないものなのだと。
アイツを初めて見た瞬間、俺は息を呑んだ。そして大きく、溜息を吐いた。運命というものは確かにそこにあるのだと、受け入れるように。
以下略
AAS
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◆TDtVvkz8pSL3
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2018/05/30(水) 01:59:13.49 ID:dFhLHRCO0
とある小さな山の中腹。
だぁれも居ない夜の公園。
アタシは一人でゆらゆらと、ブランコを揺らす。お空は雲ひとつない快晴。
以下略
AAS
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◆TDtVvkz8pSL3
[saga sage]
2018/05/30(水) 01:59:55.73 ID:dFhLHRCO0
「……こんの……バカ猫娘ェ!!!」
ゴツン!
彼は見事にアタシを受け止めたかと思うと、流れるように頭突き。即座に手を離されて、アタシは額を抑えて地面にへたり込む。うーん、見上げてないのにお星様がみえるよー……
以下略
AAS
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