ジータ「リーシャお姉ちゃん」
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9: ◆hQrgpWdMp.[saga]
2018/05/15(火) 21:51:13.57 ID:TeqkJU5v0
それから時は過ぎ、ヴァルフリートの用事が終わりリーシャがザンクティンゼルを離れる日の前日。
はじめてジータ1人で魔物を狩った祝いと別れを惜しんで少し豪華な夕食を終えた2人は、同じベッドの中でいつものように向き合っている。

「私がいなくても1人で眠れますか?」

「もう大丈夫だよ! それにビィだって帰ってくるし」

最後の『いつも』の時間が名残惜しくて、リーシャとジータは遅くまで話し込んでいた。

「私を抱き枕にしなくても良くなったなら成長したものです」

「もぉ〜! 寂しかったんだからしょうがないでしょ〜!」

寝るときは抱き合って、というのがこの10日で2人の中では当たり前のことになっていた。明日はきっと中々寝付けないだろうと予感しているのは、リーシャだけではないだろう。

「でも本当に見違えるほど強くなりましたね」

「そうかなぁ? えへへ」

リーシャがジータの頭をなでながらそうほめると、ジータは少し照れ臭そうにしつつも満面の笑みを見せる。
『さすが碧の騎士の娘』と囃し立てられるだけの実力はあると自負しているリーシャから見ても、ジータの成長速度は目を見張るものがあった。
ろくに剣の握り方も知らなかった女の子が、たった10日で低級とはいえ魔物を1人で倒せるようになるとは思っていなかった。

「このまま鍛錬を続ければ、きっと歴史に名を残す大英雄になれますよ」

「大袈裟だよセリアお姉ちゃん。でも、頑張って鍛錬は続けるね!」

あまりの大言に困り顔を見せたジータだったが、実現しようという意気込みはある様子だった。

「私、父さんを追いかけて星の島に行くんだもん。それくらいできなきゃね」

「……」

幼い瞳に爛々と夢を輝かせるジータ。小さくともしっかりと先を見据えた少女の姿がリーシャには眩しかった。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「なんですか?」

「もし私が旅に出たときは、一緒に来てくれる?」

「それは……」

ジータの期待の視線をリーシャは真っすぐに見返せない。自分はきっと秩序の騎空団に入り、それなりのポストに就かされるだろう。
父は娘であろうと贔屓はしないが、それでもそうされるだけの力はあると思っているし努力するつもりだとリーシャは考えている。
そうなればジータと共に旅をすることなどできないだろう。父のように各地を飛び回り、島々の秩序を守るために戦う日々になる。

(でも……)

ジータと共に行きたい。その気持ちが今は強くリーシャの心に根付いてしまっていた。大切なこの娘と共に自由に空を旅したいと。

「だめ……?」

「……いいえ。一緒に行きましょうジータ。空の果てまで」

「本当!? やったぁ! セリアお姉ちゃんと一緒に旅できる!」

芽生えた欲望とジータの悲し気な瞳に思わずそう答えてしまったリーシャ。

(本当の名前すら明かせてないのに、どうやって一緒に行くっていうの……私のバカ)

心の中で自分を罵倒しながら、それでもリーシャははしゃぐジータを見て喜びが沸き上がることを抑えられない。
家族や地位も関係なく、ただ本当の自分を見つめてくれるその瞳を離したくなかった。


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