5: ◆hQrgpWdMp.[saga]
2018/05/15(火) 21:49:07.34 ID:TeqkJU5v0
堪えきれなくなってその場に泣き崩れてしまうリーシャ。
「お姉ちゃん!? どうして泣くの!? もしかしてさっき怪我しちゃった!?」
「違う……違うんです……嬉しくて……父さんの娘としてじゃなくて、私のことほめてくれたの……」
リーシャがどれだけ頑張っても皆「さすが碧の騎士の娘だ」とそれは当然のことだと言うばかり、リーシャ自身の努力をほめてくれる人はヴァルフリートくらいしかいなかった。
だから嬉しかった。たとえそれが何の事情も知らない子供だからこそ出て来るものであったとしても。リーシャ本人のことだけを見てほめてくれる少女の言葉が。
「よしよし、お姉ちゃんはよく頑張ったよ〜」
さめざめと泣き続けるリーシャに少女はどうすればいいのかわからずに困った様子を見せていたが、思い立ったようにしゃがみ込んだことでちょうど届く位置になったリーシャの頭を抱きしめ優しく撫でながら慰めはじめた。
そんな少女の優しさが余計に心を震わせ、一回り以上も小さいその身体にしがみつくようにして泣き声をあげ続けるリーシャだった。
「本当にごめんなさい。服汚してしまって」
「ううん、いいの。お姉ちゃん、我慢するのも頑張ってたんだから」
ひとしきり泣いたあとリーシャと少女は、少女の家の側までたどり着いていた。魔物と出会うことはなかったが2人共泣いたおかげで目がはれ上がってしまっており、道行く村人達に心配されたり怒られたりしていたため玄関前に着く頃には日が傾き始めていた。
「ただいま〜ビィ! りんご貰って来たよ〜!」
少女がドアを開け誰かの名前を呼ぶ。しかし、家の中からの応答はない。
「ビィ〜いないの〜? あれ? 手紙?」
なおも呼びかけて部屋の奥へと入った少女は、テーブルの上に見慣れぬ封筒が置かれていることに気が付いた。
「えっと、知り合いの人との用事があるから10日ほど留守にします? えええ〜!? ビィって手紙書けたんだ!?」
(10日ほど? それってもしかしなくても父さんの用事だ。知り合いに会いに来てたんだ)
少女が読み上げた内容を聞いてリーシャは父の目的を察する。知り合いに会いに来たというならば本人が出向くのも頷ける話だ。なぜリーシャを外させたのかは分からないが。
「でもどうしよう、10日も1人になっちゃう……」
「えっ? ご両親は?」
「お父さんはイスタルシアだし、お母さんも……」
リーシャの問いに少女は寂し気にそう答えた。
(こんな小さな子をひとりぼっちにさせるなんて、何を考えてるの父さん!)
旧交を温めるにしても少女も連れて行くべきだっただろうとリーシャは心の中で憤る。自分が『グランアインス』まで連れて行こうかと思ったが、
(いや、この子には私が七曜の騎士の娘だと知られたくない)
父親は関係ないというが全空最強の名を戴く七曜の騎士の娘であるという事実を知れば、この子も変わってしまうかもしれない。それを恐れたリーシャは不安げに見つめて来る少女に笑いかけて言った。
「じゃあ、お姉ちゃんが一緒にいてあげます」
「本当!?」
「はい。ちょっと許可は取らないといけませんけど、たぶん大丈夫です」
「わ〜い!」
リーシャの言葉に少女は両手を上げて喜んだ。自分と一緒にいられることを無邪気に喜んでくれる少女にリーシャの胸が暖かくなる。
「少し待っていてくださいね。すぐ帰ってきますから」
「うん! いってらっしゃい!」
少女の声を背に『グランアインス』に駆けだそうとするリーシャだったが、ふと足を止めて振り返った。大事なことを聞き忘れていたからだ。
「そうだ。貴女の名前を聞いていませんでしたね。なんてお名前なんですか?」
「あっ、そうだった。自己紹介してなかったね。私の名前はジータ! よろしくね!」
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