56: ◆CItYBDS.l2[saga]
2018/07/19(木) 07:35:26.71 ID:/DWZcchK0
「酔っ払いの事を指して、千鳥足ってのはわかるでしょう?あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。右足を左に、左足を右に」
「俺はまだ、経験したことは無いが。まあイメージは湧くよ」
「出来の悪いダンスみたいに、右に左に体を大きく揺らしながらも前に進む。それが千鳥足。そして、その奥義こそが千鳥足テレポートよ」
彼女は、完全に説明モードに入ってしまった。隠しようがないほどの話題逸らしから考えられることは、『名は聞くな』そういうことなのだろう。
ならば聞くまい。というか聞けない。いや、なんか名前を聞いたり素性を聞いたりってのは下心が見え吸えてそうで恥ずかしい。
それに、名を名乗らないってのもちょっと秘密をもっているようで格好いいじゃないか。ならば俺も名乗るまい。
「ねえ、聞いてる?つまりね、ランダムであらぬ方向へ飛んでしまうこともあるけど、少しずつ目的地に近づけるってことなの」
「そんな、都合のいい魔法だったのか」
「そうでもないわよ。最終目的地にいつたどり着けるのかはさっぱりわからないし、なによりこの魔法は場所と使用者を選ぶ」
「そういえば、そんなことを言っていたな。貴方には資格があるとか」
「その通り。この魔法は酔っ払いにしか使えない」
魔法は、常に対価を必要とする。自然の理を超越し、奇跡を為すため。つまるところ、世界への捧げものだ。
大抵の場合、それは術の使用者が自身に内在する魔力によって支払うこととなり、魔法の効果が強大になる程、その勘定は跳ね上がっていく。
テレポートは、一度訪れたことがある場所に飛ぶことができる魔法だ。行ったことも無いうえに、そこが何処であるかもわからないにも関わらず、目的地へとたどり着くことができる。そんなことができる魔法ではない。
だがそれを可能とするならば、それ相応の対価が必須。つまり千鳥足テレポートを行うには、膨大な魔力が必要となるはずだ。そうだな、それこそ国を一つ滅ぼすほどの魔力が要るだろう。
だが、彼女に歴史に名を遺すほどの大魔導士と同様の魔力を有しているようには到底見えない。
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