292: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:34:51.71 ID:ABaWR+nR0
「ん」
「だからさ、また旅に出ようよって話をしてるの」
「旅だって?なんだって今更」
「だってパパは私たちのことを認めてくれたけど、勇者はまだママに会ってないじゃん」
「ママ?」
「そ、いつだったか仕事命のパパに愛想つかして出て行っちゃって、今は行方不明なの。今度は、そのママに挨拶に行こうってこと」
「行方不明のママねえ。俺は構わないが……」
どこからかカチカチカチカチと音が鳴っている。
ふと、音の先を伺うとマスターの手元がそれであった。白いナフキンを持ち、いつものようにグラスを磨くマスターの手は明らかに震え、その爪の先がグラスへと叩きつけられていたのだ。マスターを見上げると、その表情こそ変わらないが血の気が引き真っ青となっている。
あのマスターが……まさか怯えているのか!?
俺は、あわてて彼女を振り返る。
「ママは、パパより強いし頑固だから覚悟しててね勇者」
「ふん、望むところさ」
どうにか精いっぱいの強がりを見せてみるが、どうにも酒は俺の心を丸裸にするらしい。
マスターの手元と同様に、俺の強がった台詞は恐怖に駆られ酷く震えたものだった。
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