275:今日で最後の更新です ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/08(土) 22:26:39.01 ID:ABaWR+nR0
「久しぶりだな勇者、いやいまは《ビール》と名乗っているらしいな」
俺のことを《ビール》と呼ぶということは、ビール工場での一軒は既に魔王の耳へと届いているのだろう。ならば、俺が既に魔王と争うつもりがないということは炎魔将軍から伝わっているはずだ。
「ビール?」
「……後で説明する。一体何の用だ魔王」
問いかけてきた遊び人を手で制し、俺は魔王へと向き直る。もう奴と戦うこと必要はないということはわかっているが、いざ魔王を前にすると肌を刺すような緊張感が全身を駆け巡る。
「なに、娘が惚れた男と話をしたくてな」
「娘!?」
遊び人と魔王の顔を、何度も見比べる。……確かに面影は似ている、真っ赤な目の色も同じだ。俺が、遊び人の瞳をじっと見つめていると、彼女は気まずそうに斜め上へと視線をずらした。それでごまかしたつもりか。
……ということは、マスターは遊び人の祖父というわけか。どおりで、遊び人のことをやたらと気にかけていたわけだ。
魔王が、ゆったりと歩をすすめこちらに近づいてくる。魔法陣の光は既におさまり、部屋は月明かりとカウンターの周りに置かれたランプだけがだよりだ。ランプに照らされた魔王の表情は、やはりどこかやつれていて酷く疲れているように見えた。
「酷い顔をしているぞ」
そのあまりの変貌ぶりに、思わずかつての宿敵を案じてしまう。
魔王は、まるで浮いた皺やクマを確かめるように自身の顔を撫でた。
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