267: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/06/05(水) 22:40:34.52 ID:1oYqpqim0
炎魔将軍の言葉を思い出す。「人に化けると、思考や性質が人間に寄ってしまう」。おそらく、彼女にもそれが起こったのだろう。魔王軍という群れを一人離れ、人間として日常をおくる中で魔王への忠誠心が薄らぎ、強い自我に目覚めたのだ。
「私は、まずマスターを頼った。先代魔王なら、何か知ってるかもって思ったの。だけど、マスターは何も知らなかった。でも、かわりに千鳥足テレポートを私に教えてくれた。千鳥足テレポートの恐ろしさはキミも知っている通り、私はかつての仲間たちとアッサリと再会を果たしたわ。でも、長らく魔王軍への合流を果たせなかったうえに人間として暮らしていた私は彼らに信用されなかった。誰も、魔王の居場所を教えてくれなかった。……悲しかったわ、本当は魔族だという負い目からか人間たちとは深く付き合えなかったし、そのうえ仲間だと思っていた魔族たちからも信用されなかったんだから。私に居場所なんてないって。その悲しさを紛らわすために、毎日お酒を飲んでたわ。そんなときよ、キミに出会ったのは」
「飲むか?」と、俺は彼女に酒をすすめる。彼女は何も答えなかったが、俺はグラスを口元まで運んでやる。動かない頭ではあるが、俺には彼女がコクんと頷いたように見えたからだ。彼女は、「ありがとう」と言ってウイスキーを喉に通した。
「相変わらずの人に化ける生活で、更には勇者に味方したことで余計に魔族たちにも信用されなかったけど、隣に同じ目的を持った人がいるってだけで私はすごくうれしかったの」
俺は、彼女の頭を持ち上げ自分の前へと運ぶ。そして、そっと机の上に置いて彼女の目を正面から見つめた。
「じゃあ、なんで俺の前から消えた?」
その質問は、俺が消えた彼女を追い続けた理由であった。
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