遊び人♀「おい勇者、どこ触ってんだ///」
1- 20
204: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/12(日) 10:49:10.93 ID:a8CCrCX80
 草木も眠る丑三つ時、俺は王都の南西、この国で最も広い流域を持つ大河の辺に立っていた。この地域には、背の高い倉庫がぎゅうぎゅうに敷き詰められており視界がまったく通らない。昼はともかく、夜間ともなれば人気もなくなり何かを隠すにはもってこいの場所なのだろう。巨大な川は、それだけで有用な交通路となる。王都に運び込まれる、もしくは持ち込まれる品の大半は、この倉庫街を経由するとも聞く。今回向かっている魔王軍の拠点も、他の地域から秘密裏に流れてきたムーンシャインを保管する秘密倉庫なのだろう。


 俺は、指先に熾した魔法の光で地図を確かめる。地図に従い、倉庫と倉庫の間の狭い路地を進んでいく。倉庫は、どれも似たような造りになっており地図がなければ完全に迷っていただろう。魔王軍の拠点は、そんな迷路のような道の一番奥にひっそりと建っていた。秘密なのはわかるが、こんな迷路の最果てに倉庫を設置して、いったいどうやって荷下ろしをしてるんだ……?

 正面の大扉も締まっているが、わずかに光が漏れている。近づくと、倉庫の中に多くの気配を感じた。俺は、中の様子を伺えないかと建物の周囲をぐるりと回ってみることにした。建物の側面に回り込むが、窓が一つもない。そのまま裏へと回ってみる。


「なるほどな、こんな所でもやっていけるわけだ……」


 倉庫の背後には、大河がひろがっていた。建物から直に伸びた桟橋が、河へと突き出ている。荷物の搬入搬出は、全て水路を利用しているというわけだ。偵察と呼べるほどの成果はなかったが、突入は実にやりやすくなった。出入口が二つしかないということは、つまり、敵を逃してしまう可能性が少ないということだ。

 俺は、普段より一際声のトーンを落として魔法の詠唱を始める。


「氷結魔法 ストロングアイシクル」


 全身から力が抜け、強い疲労感に襲われる。魔力切れの症状だ。片膝をつき顔をあげると、持っている魔力を全部つぎ込んだ甲斐あって、大河の一部を凍らせることに成功していた。これで半日は、船を出せない。敵の逃走経路は、正面の大扉に絞られた。


 大河の異変に、中の連中はまだ気づいている様子はないが時間の問題だろう。俺は、呼吸を整え正面大扉に向かった。


「久しぶりに、勇者らしく正面から堂々と行こう」


 誰に言うでもなく呟き、俺は大扉へと手をかけた。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
296Res/317.15 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice