193: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/08(水) 19:44:47.54 ID:uG8tzRkA0
久しぶりの故郷の空気を吸い込んでも、俺には何の感慨も沸き上がらない。俺は、そもそも孤児だったし、幼い頃から勇者としての厳しい訓練や教育を受けていたためか、ここには何の楽しい思い出もない。浮かぶのは、せいぜいが、勇者としての責務を果たしきれていないことへの罪悪感ぐらいのものだ。
「ほっほっほ、久しいのう勇者様。帰ってきたということは、遂に魔王を打ち取ったか? 」
俺を出迎えたのは、女神正教の司教。かつて、俺に勇者としてのありよう、教会の戒律をしこたま教え込んでくれた人だ。
「申し訳ありません司教様。残念ながら、行き詰って助けを求めに帰って参りました」
司教とは、特に親しいわけではない。だが、教会でも有数の情報通であると言われる彼なら、俺の抱える問題に一筋の光を差し込んでくれるかもしれない。俺は、差しさわりのない程度に俺の置かれている状況について説明をした。
「……ふぅむ、酒に酔うことが条件のテレポート。そのように面妖な魔法があったとは」
「国が定める法を犯していることは重々承知しております。しかし、魔王を見つけ出すにはこの魔法が有用であると私は考えたのです」
正直なところ、俺は魔王を探すという建前だけでなく酒を楽しんでいたのだが、そこまで言う必要はあるまい。魔王をそっちのけで、遊び人を追っているという点も内緒だ。いい年をして、この老いた男に教鞭で叩かれるのはごめんだ。
「まぁ待て、酒が禁じられている世であるが、そのことを咎めるつもりはない。それよりも、耐性の力の話じゃったな……」
「はい。私が女神さまより授かったこの力を、どうにか抑えることはできないでしょうか」
司教は顎に手をあて「ふむ」と呟いた。
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