白菊ほたる『災いの子』
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92: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:32:17.97 ID:Y+SAhLWq0
   08.

 小学6年生の運動会のとき、私は女子長距離走のクラス代表に選ばれた。
 特別運動に秀でていたわけでもない私が、なぜ代表に選ばれたのかはわからない。もしかしたら、みんながやりたがらない種目を押し付けられただけなのかもしれない。

 自他ともに認める雨女で、遠足などのみんなが楽しみにするイベントには数限りなく雨を降らせてきた私だけど、運動会当日は抜けるような快晴だった。
 長距離とはいっても、実際にそれがどのくらいだったかは覚えていない。小学校のことだし、それほどの距離ではなかったと思う。

 校庭のトラックを1周し、校門から外に出て、決められたルートを走る。
 ところどころに目印代わりの生徒や教師たちが立っていて、道を間違えないように誘導していた。
 私は一生懸命走った。押し付けられたはずれくじでも、代表であることは変わりない。手を抜いて、みんなの迷惑になんてなりたくなかったから。
 車にぶつかりそうになっても足を止めず、靴ひもが切れたら急いで結び直して、何度も転んで、同じ数だけ立ち上がって、ひたすら一心不乱に走り続けた。

 しばらくして、後続がどんどん離れていくのがわかった。
 私が先頭を走っている。私が他のクラスのみんなを引き離している。そんな快感を背中で覚えながら、私はまた一生懸命に走り続けた。

 街中をぐるりと周り、再び校門をくぐる。トラックのコースに戻って、ゴールを目指してまっすぐに走る。



 私はいちばんでゴールをした。

 はずだった。



 ゴールラインを駆け抜けて、倒れるように地面にへたりこみ、咳込みながら息を整えて、ようやく気付いた。
 ゴールの両側で向かい合うようにしたふたりの教師が、テープを持っていなかったことを。
 先頭だと思っていた私の、視界に入らないほど遥か先を、ひとりの少女がずっと、悠然と走っていたことを。

 私が2位になったことでそこそこの得点が入り、私のクラスは優勝した。もしこれが3位だったなら、優勝は逃していたらしい。
 予想外の私の健闘を、みんながたたえてくれた。会話を交わしたこともないクラスメイトとハイタッチまでした。

 みんなが喜んでいた。みんな笑っていた。

 私は、笑えなかった。


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