白菊ほたる『災いの子』
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76: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/23(水) 18:05:49.90 ID:XzeV2oVA0
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 これまであまりそういった経験がなかったため、私はたぶん、浮かれていたんだと思う。

 寮の自室に帰ってから、私は携帯電話を片手に思い悩んでいた。
 つい反射的に引き受けてしまったけど、私といっしょにお出かけなんかしたら、夕美さんになにか悪いことが起きてしまうかもしれない。プロデューサーさんみたいに。
 プロデューサーさんならいいというわけじゃないけど、夕美さんはライブを控えているだいじな体だ。万が一にもケガなんてさせるわけにはいかない。

 だけど、わざわざお休みの日に誘ったということは、なにか私に話でもあるのかもしれない。それにいちど引き受けたことを反故にするのはよくない。

 ……なんて頭の中で必死に言い訳を作ってるけど、本当は違う。私は楽しみにしているんだ。夕美さんと、遊びに行きたいと思っているんだ。

『だけど』が頭の中で繰り返される。
 今の状況的に、優先するべきはライブだ。断りの電話をかけることが正しい、と思う。
 液晶画面には、夕美さんの電話番号が表示されている。私はもう10分以上に渡って通話ボタンに指を伸ばしては引っ込めを繰り返していた。
 そのとき、手の中の携帯電話が鳴りだし、心臓が止まるかと思った。夕美さんからのメール着信だった。
 メールを開いてみると、明日の待ち合わせの時間と場所が書いてあった。それから「楽しみにしてるね」とひとこと、最後は花束らしき絵文字で結ばれていた。

 私は悩みに悩みぬいた末、携帯電話を机に置いた。
 断りの電話はかけない。私は夕美さんとお出かけをする。
 だけど、夕美さんにケガなんてさせない。いざとなったら、私が身を呈してでも防いでみせる。
 ベッドに腰かけて、両手をぎゅっと強く握りしめた。

 私が夕美さんを守るんだ。


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