43: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:45:55.84 ID:xTncLF7m0
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レッスンを終えて、私は周子さんといっしょに寮に帰ることにした。
事務所を出る前に周子さんに少し待ってもらって、いつものようにプロデューサーさんに声をかけに行く。
「お疲れさまです。私、そろそろ上がりますね」
「あ、白菊ちょっと待って」
プロデューサーさんが私を呼び止める。
はい、と向き直った私に、プロデューサーさんは躊躇するように少しの間を置いて、ゆっくりと言った。
「黙っていてもいずれどこからか伝わるだろうから、今のうちに言っておく。お前がうちに来る前にいたプロダクション、倒産したそうだ」
全身が粟立つ。急に室温が下がったような気がした。
「……そう……ですか」
硬直してしまったような喉から、かろうじてそれだけ絞り出す。声はかすれて、震えていた。
私のせい? 私はもうあの事務所には所属していないのに?
……そうだ、経営が危なかったのは、私がいたときからだ。
おそらく、あのころにはすでに倒産が視野に入るくらい財務状況は悪かったのだろう。なんとか立て直そうと一縷の望みをかけて、疫病神たる私を解雇した。だけど、そのあとも回復しきれなかったということだ。
「白菊、だいじょうぶか?」
私は弱々しくうなずきを返す。
「あの事務所には……あまりいい思い出がないんです。いつも怒鳴られていて、大きな声を聞くだけで怖くなっちゃって……、他のアイドルの人たちからも、嫌われていて……」
みんなは私を恨んでいるだろうか?
……きっと、恨んでいるだろうな。
「それでも……潰れてほしくなんてなかったです」
事務員さんの言葉が脳裏によみがえる。
『あなたさえいなければ』
私がいたせいで、
346プロもいつかは――
「お前のせいじゃない」
プロデューサーさんが珍しく、語気を強くして言った。
その顔はほんの少しだけ、苦しげに歪んでいるように見えた。
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